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  • Yuko hagos

小説 ''少女の描く絵''

Updated: May 20, 2023


 1

Lilacは伸びをして、ベッドから起き上がった。朝陽が、部屋に気持ち良い光を投げかけている。ワッフルのコットンローブを着て、キッチンへ行った。コーヒーの用意をし、窓の外へ視線を向けた。アパートのベランダから見える川を挟んだ向こう岸の川沿のサイドウォークに人が集まっているのが見えた。いつもは、ジョギングする人や、散歩をする人しか見えないのに、人が集まっている光景は珍しい。人数は20人くらいだろうか、ミーティングなのか、ストリートパフォーマンスなのか、Lilacは気になった。数人がその場を離れたので、中の様子が見えるようになった。小さな女の子と並んだキャンバスが見える。その横に母親らしい髪の毛が自然と言えば自然体の、言い換えると髪を無造作に束ねた女性が座っている。一人の女性がキャンバスを手に取って、一緒に居た男性と一緒にその場を離れた。ここからはどんな絵なのか見えないが、売る事が出来るくらいの絵なのだろうか、また他の女性が違う作品を手に取ってその場を去った。通り過ぎる人が、新たにのぞき込んで、立ち止まって、興味深げに作品を見ている。また他の若い男性と女性が、作品を買って去る様子が見えた。止まって見る人が一つずつキャンバスを持って帰っている。Lilacはこんなに朝早くどんどんと売れる絵を描く女の子は一体どんな子なのだろうととても興味が湧いた。でも散歩する人がお金を持って散歩に行くのかなあと思い、少女は人にただで絵をあげているのかもしれないと考えたりもした。興味があったが、かと言って、パジャマを着替えで、向こう岸まで行く気はない。リビングに戻って、コーヒーを啜りながら、ボールに入れたオートミールに熱湯を入れて、皿で蓋をして、またベランダへ戻ると、あっという間に人の集まりはなくなって、いつもの人が行き来する様子だけが見えた。


朝食を終え、身支度を済ませて仕事場へと向かった。Lilacはホテルのフロントで働いている。今日は8時から5時までの仕事だ。ホテルは町でも古く歴史があるので、世界中から、宿泊客が来る。場所柄有名人と出会えるのも、ラッキーな部分なのかもしれない。有名人は皆が愛想が良い訳ではなく、映画やテレビで見るのとは違い、意外に不愛想な人もたくさんいたりして、皆普通の生活に戻れば、普通の人間だと気づかされる。このシフトはすぐチェックアウトや、予約の電話やオンライン予約でとても忙しい。

ランチタイムは1時となっている。ランチタイムとなり、玄関を出た横のデイリー兼スーパーでサンドイッチとペリエを手に入れた。そのスーパーでは焼き立てのパンや、オーダーした後に作るサンドイッチ、タコスなどが手に入るので、ランチはそこに決めている。前の道路を隔てた、川岸のサイドウォーク兼公園の花壇のブリックに腰を下ろし、ランチを食べた。サンドイッチを食べ終える頃に、朝見た絵を売っていた少女と母が向こうからこちらへ向かってくるのが見えた。少女は5歳くらいで右へ行ったり左へ行ったり、落ち着きなく子供独特の歩き方をしている。母はそれを全く気にしていないかのように、大きな荷物を背負い、何かを考えながら歩いてるような様子だ。少女がLilacの目の前に横歩きで来て、停まってLilacを見たがすぐまた反対側へ足早に横歩きして行った。その後、母がこちらをちょっと見たが見ているのか、目をやっただけで見ても何も意識してないかのように、視線を送ったがそのまま又視線を前に戻して通り過ぎた。少しして、何か紙切れのようなものが母から落ちるのが見えた。それに気が付かずに母はそのまま歩き続けた。Lilacがすかさず立ち上がって、紙切れを拾い、ハロー、これを落としましたよと声をかけた。母は気が付かずにそのまま歩いている。Lilacはさらにハローと声をかけた。少女が振り返って、母に指で、Lilacの方を指した。母が振り返り、Lilacがこれを落としましたよと言うと、サンユーと言ってお礼を言った。Lilacは母が耳が不自由であると気が付いた。Lilacはどういたしましてと口をはっきり動かすと、母親はサンユーとまた言った。Lilacは少女に向かって、あなたは画家さんなの?と聞いた。少女はなぜわかるのなどと聞くこともせずに、うんと頷いた。母親はLilacの口の動きで何を言ってるのかわかったのか、母が縦長の肩に下げた自分の背丈ほどの大きなバックを下ろして、絵を二つ取り出して、Lilacに見せた。Lilacはあまりの素晴らしさに唖然とした。何と言えば良いのか、抽象画の中に自分が行きたい海の近くの海岸の町を思わせるような、絵全体が何かを言ってるような不思議な魅力がある絵だった。もう一つは、オレンジの中に小さな四角いオブジェクトがたくさんあるような幻想的なこちらも抽象画だった。両方とも素晴らしく、Lilacは暫く絵を見つめた。そして凄く気に入ったわと言った。母に幾ら?と聞いた。母が一つ選んで。あなたに上げますとしぐさをした。Lilacはオーノーと言って、買いますよと言った。母が両方を交互に持ち上げて、こちらが良いですかとのしぐさをした。LilacはOk,両方とも欲しいので、一つは買うので値段を言ってくださいと言うと、母がお金はいりませんと言った。Lilacはただじゃあ、頂けないはと財布を取り出し、現金を全部取り出し今これだけあるのでと、50ドルを出した。母がノーノーと手を横に振り、多すぎますと言ったが、Lilacは50ドルを無理やりに押し付けた。母は何度もLilacに返そうとしたが、Lilacは断固として受け取ってほしいと言い、母は胸に手を当て、サンユーソーマッチと言って、頭を下げた。少女もサンキュ~と甲高い声で明るく言った。母がサンユーとまた言って、頭を下げてその場を去った。少女もまたサンキューと明るく笑顔で言って、二人とも去っていった。

ホテルへ戻ると、同僚が絵を買ったの?と興味深げのぞき込んだ。同僚が、ワ~なんかすごい魅力ある。何か喋ってるみたい。なんとも言えないエナジーを持った素敵な絵ねと言った。Lilacも私もそう思ったのと同僚に話した。

 2

Lilacは帰宅後早速リビングとベッドルームに絵を飾った。海のイメージをリビングに、オレンジの絵をベッドルームに飾った。部屋全体の雰囲気がすっかり変わり、なんとも言えない明るい雰囲気を醸し出している。Lilacがいつか住みたい街を常に頭の中で構想して、描いているのだが、一つの絵はLilacの構想の場所を描いたような作品だった。偶然だわ~とLilacは独り言を言った。

その夜ワイングラスに赤ワインを注ぎ、お気に入りのチーズとクラッカーをプレートに乗せて、ソファーに腰掛け、飾った絵を見上げた。絵が有難うと言った気がした。Lilacはこちらこそ、来てくれて有難うと答えた。その会話に何の不思議さも感じずに。何故か家にカンパニーがやって来たようなそんな自然に雰囲気である。夜ベッドに入る前に、ベッドルームに飾った絵を見た。ゆっくりとお休みと言ってるような温かさに包まれるような気がした。来てくれて有難うねと絵に向かって言った。絵がまるで手を広げてどういたしまして~と言ってるようななんとも安心できるような気持がした。なんだか深くゆっくり眠れそう~と言って、床に入った。その夜はほとんど夢を見ることなく、熟睡した。朝起きてとてもすっきりした気持ちになった。部屋の空気が、何故かとても新鮮で輝いているように感じた。


それから数日が過ぎ、その日の仕事は遅番だった。夜から夜中にかけてのシフトである。Lilacは正直このシフトが好きではないが、誰もが朝番、中番、遅番のシフトは必ずしなければならない。中番のシフトは1時から8時で遅番が7時からと10時のどちらから始まる。10時の開始は女性スタッフには殆ど来ない。夜7時から仕事が始まった。夕食へ行く客がドレスアップしてフロント前を通り過ぎる。中には町へ出かけて行く客、ホテル内のレストランへ行く客など様々だ。夜の街もライトアップで昼間とは違ったロマンティックな美しさがある。9時過ぎになると、かなり酔った客がホテルに帰ってくる。中には自分で判断つかずに大声を出したり、見ていられない程自分を失う客もいる。Lilacはフロントから見えるプールサイドにある中庭と室内両方にカウンターのあるバーを見るのが好きだ。自分は仕事中なので客のようにリラックスしてバーで時を過ごすことはできないけれど、自分がこのホテルに客としてきたらきっとバーでのひと時を楽しむだろうと想像するのが好きなのだ。バーには一人で来る人が殆どだ。ビジネスでこの町に来ているのだろうか、それとも作家でこの町に来て新しい作品を書く為に滞在してるのか、バーで寛ぐ人々を見ながら、一体この人はどんな仕事してるのかななどど想像するのも楽しい。


その夜、バーに男性が一人でウイスキーを飲んでいるのが見えた。彼はこのバーへ良く来ていた。男性はLilacよりは年上と見てわかる。いつも来ると手にグラスを持って、氷を廻しながら何かを深く考えてるようだった。バーテンダーが何かを話して話のきっかけを作ろうとしても、彼は頷くがバーテンダーとの会話を続けようとしていない。いつものように1時間ほど、バーで一人だけの時間を過ごし、彼はホテルの表玄関から出て行った。彼はここの客ではないとLilacにはわかった。部屋に戻らずいつも来ると、ホテルから出て行く。その夜はいつものようにこれと言って問題もなく一晩が終わった。時には緊急対応が必要な客もいるのだが、そうなると夜なので対処は簡単ではない。

シフトが終了し、夜中に帰路に着いた。アパートに戻り、直ぐ床に就いた。ナイトシフトの後は必ず休みなので、ナイトシフトで疲れた体を休めるために何もせずに過ごすことが通常だ。朝11時には目が覚めた。遅い朝食を取り、ベランダに腰かけてティーを飲んだ。あの少女と母の事を考えた。一体どこに住んでいるのかな?きっとこの近くに住んでいるに違いないと考えていた。リビングにかけた絵を見た。全体は優しくカラフルでコバルトブルーと白の街を思わせるオブジェクトが目を惹く、絵全体が暖かいハーモニーを醸し出している。そこには計算がなく、それでいて、そうなるべきしてなったと言うような完成した絵と思わせる。何となく描いたと言うよりも、絵を描かされたと言うような完璧さが子供の絵なのにある。

ベッドルームに行き、そちらにかけた絵も改めて見た。こちらはオレンジベースと、四角いオブジェクトがたくさんあるシンプルで穏やかな色彩の抽象画だったが、何か見ていると砂っぽさを感じさせる。見ていると何とも言えない親近感を感じる。両作品はあんなに小さなあどけない少女が描いたとは思えない。一体どこでどのくらいに時間をかけた描いたのか、など興味が尽きない。また会えないかなと思った。

午後スーパーに出向いた。夜はサラダに軽くチキンか魚でも簡単にクッキングしようと考えている。ベーカリーで焼き立てのパンを手に入れて、スーパーで野菜、とチキンの胸肉を手に入れて、ミルクなど他に必要なものを買い足し店から出た。また、あの少女と母がかなり先の歩道を歩いているのが見えた。走って挨拶したい気持ちになったが、買った品物を持って素早く走るのは難しいし、かなりの大声で声をかけないと、少女には聞こえないだろうと考えて、スーパーで買った品物を持って、帰路へ向かった。二人も同じ方向に向かって歩いている。数ブロック歩いたところで建物に二人で入っていった。Lilacはあそこに住んでるのかしらと思いながら、自分はずっとその手前の角を曲がらないとならないので、そのままさらに歩き出した。彼女たちが住んでる家がわかったわとちょっと嬉しかった。友達ではないが、絵の作者の少女とつながった気がした。

家に帰り、ドアを開けて中へ入ってすぐに携帯がなった。今アフリカに国連の活動で言ってる彼Leonだった。Lilacは飛び上がって、すぐ返事し、Leon!と返事した。Leonがヘーイ、ベイビー!といつもと変わらぬ明るい声で言った。今買い物から戻って来たところ。凄いタイミングよ~!元気?‘’ ‘’ オーヤー、元気だよ。ニジェールでの活動が終了するので、帰るよ~と報告した~!‘’イェーイ!!やっとなのね!‘’とLilacが叫んで、ジャンプした。待ちに待った日がやってくる。‘’いつなの?‘’ ’’再来週には帰れるよ‘’とLeonが言った。Lilacは大興奮して、今日のディナーは新しいワインを開けて、乾杯だわ!と人生が一瞬でばら色に変わったかのような気になった。いつもこの繰り返しだが、Leonが帰ってることをいつも心待ちにしてLilacは生活している。いつも一人で寂しいが友人とも特定の友人以外会う事はほとんどない。それよりもLeonが援助を必要とする内紛被害者や、物資が不足して生死を左右する状態で生きてる人々への援助を危険を覚悟で行く彼の勇敢さや、寛大さなどを理解せずに、中には何でお金持ちや安定した仕事の彼を選ばないのかと平気で言う人もいて、自然と彼を心から良く理解してくれる人間的に深く思いやりに溢れた友人達以外とは会う時間を作らないようになった。時々付きあいで集まりに出ることもあるが、まれだ。行けば行ったで、楽しいと思うことは少なく、今流行のものを手に入れた自慢話やゴシップなど、Lilacに取っては、興味のない事ばかりで、話に入れない事が多い。それよりも気の合う友人たちとだけ会ってる方がずっと有意義な時間を過ごせるので会う友人は自然と限られてくる。

Lilacはハーブチキンを作って色とりどりのサラダを用意し、フレンチブレッドとワインで遠く離れたLeonの帰宅を乾杯した!壁にかかった絵も、一緒に乾杯して盛り上げてくれてるような気がした。


 4

Leon が帰って来た。Lilacはこの世にない喜びを彼といると感じる。LeonもLilacの飾らない、自分に合ったペースでゆったりと生活する姿勢が大好きだ。Leonが部屋の絵にすぐ気づいた。Leonがこの絵は誰が描いたの?とLilacに聞いた。Lilacは絵を手に入れたいきさつを説明した。Leonが信じられないと思うけれど、この絵から今ニジェールのニアメの街並みがはっきり見えたんだ。と言った。Lilacが、どういう事?と何を言ってるのかわからない様子で、答えると、この海の光景の向こうに僕が活動拠点のニアメの様子がはっきり見えたんだよ。と言った。でも多分頭の中にニジェールの活動の光景が焼き付いているから、僕の頭の中の記憶と交差したんだろうねと、自分で納得した様子だった。Lilacには自分が構想してる海の街の光景を思わせる作品なのに、アフリカの街?と不思議に感じたがさほど考えずに、その後、まずはワインで無事の帰国と再会、Lilacはそれに加えて、これから先の安全、二人の幸せなど思いつく限りの願いを込めて乾杯した。Leonも深く頷いて、乾杯!と思い切り再会を祝福し、Lilacは腕を振るって、Leonが大好きな料理を振る舞った。二人は話が尽きなかった。Leonはニジェールの情勢は悪く、アフリカでも一番貧しい国の一国で、人道的な教育に国連は力を入れているんだと、男女平等に、子供たちが教育を受けられるように、あらゆる方向から、社会に働きかけ、国の向上に力を入れていると説明した。LilacはいつもLeonの安全を心から祈って病まない。情勢の悪い国での活動に、危険はつきもので、軍人として海外で服役している家族メンバーを持つ家族の不安と一緒だ。Leonは活動について、止まることなく話した。LilacもLeonの話を聞くのが何よりの楽しみであり、安心感へとつながる。

Leonが胡椒を取りにキッチンへ行き、二人でくつろぐリビングに戻って来て、また絵に目を向けた。ウーン、Lilac,この絵誰が描いたの?この絵普通の絵じゃないと思うよ。何か深い意味があるはずだ。この絵、人の気持ちを読み取る感じがする。Lilacは、Leonの顔を見たが、正直自分もそう感じていた。Leonは変な意味じゃないよ。いい意味で、人の気持ちを癒すとか、会話をするとか、率直に言うと、深層心理を読むと言うか。LilacもLeonに、最初見た時に、私がいつか住んで見たい海のそばの街のイメージとよく似てると思ったの。それに私とまるで誰か親しい友人のように会話をしてるような気分になるの。と言った。Leonが聞いた。この絵は誰が描いたの?Lilacが小さな少女なの。耳の不自由なお母さんと絵をあそこの川のサイドウオークで人にあげていたの。売ってたのかもしれないけれど、早朝だから多分あげていたんだと思うわと言った。その後、ランチの時間、またホテルの前のサイドウォークで私の前を通って、紙の切れ端をお母さんが落としたので、それを拾って知らせたら、お礼に一つ絵をくれようとしたの。もらうわけにはいかないので、二つ買う事にしたの。Leonがもう一つの絵も見たいと言うので、ベッドルームに行った。Leonが、口を大きく開けて、驚いた様子で、これニアメだよ!と言った。Lilacは嘘でしょ!と大きな声を出した。Leonが、この女の子、自分では気がつかなくても、描く絵の買い手の人生を予測して描けるんだよ。この絵を描いてる時に、君を通して、僕の事が見えて描いたとしか思えない、又は僕ら二人と会う事が分かって描いたのかも。リビングの絵見た時に、その絵を通してこの絵が僕に見えたんだよ。と叫ぶように言った。その少女は描いてる時に、絵が僕たちのところへ来ることをわかって描いていたんだよと、Leonが言った。Lilacは呆気に取られて何も言えなかった。

二人はリビングに戻り、Lilacが、こんな事ってあるのかしら、信じられないと言った。Leonがアフリカの広大な平野に行ったりすると、男たちは、連絡が全く取れない遠く離れた土地から家族に頭の中で、信号を送るんだ。今から帰るよ、1時間くらいでと。妻はその信号を当たり前に受け取るんだ。不思議な話なようだけれど、人間に第6感が存在するって、自然の中で住む人間と出会うと、本当に存在するってわかるんだ。今は情報があらゆるところに混乱して、インターネット、メディア始め、あまりに情報が溢れているから、感覚で感じることが退化してるんだって思うよ。この少女がそのセンスを持ってるかと言うとそれとは違うけれど、気が付かないうちに、その少女は描いているときに、その絵が行く先のその絵の持ち主となる人の事を何かの力で感じて、知らず知らずのうちに絵を描く才能を持っているんだと思うよと言った。

Lilacが彼女たちが住んでる所をたまたまショッピング行った時に偶然見て知ってるの。訪ねて話がしたいわねと言った。Leonがわざわざ訪ねるのは、どうかと思うけれど偶然会えたらいいねと言った。

二人はこんな事があるのかと、信じられなかったが、人間にはそんな感覚が本当はあったとしたら、昔は当たり前のようにあったのかもしれないと考えれば、不気味な事にも思えなかった。それよりも、そんな純粋なセンスを持つ少女の存在が素晴らしいと二人は同意した。


 5

Leonの次の活動は1か月後だ。1か月時間があるので、色々計画立てるのに忙しい。ただLeonはLilacに仕事を休んでまで自分の為に時間を空けて事を望んではいない。いつものLilacの日常の中で二人の時間を楽しむのがいつもの事だった。

数日して、LilacはLeonを絵を描いた少女と母親が住む建物の方へ向かった。偶然にでも会えればと。建物の1階になんとアートショップがあった。前はインテリアデザイナーオフィスだったが、いつのまにかアートショップになっていた。Lilacはこの町にずっと住んでいるのに、いつからアートショップが出来たのか、全く覚えていなかった。何度も前を通っていたのに、気が付かなかった。

二人でアートショップに入った。少女の絵があることを期待したが、少女の絵は一つもなかった。それらしいものもなく、よくあるようなポスターやお洒落なたくさんの作品が飾られていた。二人で見回して、二人ともこれと言って、素晴らしいと思わせるような作品はないと感じた。店の店員が、ニコニコしながら、何か特別な好みのものがありましたら、取り寄せることもできますので、と言った。Lilacが店員に、少女が描く、カラフルな絵ご存じですか?と聞いた。店員が、首を傾げて、少女が描く作品ですか?うちには子供が描く作品は一つもないですよと言った。Lilacがこの上はアパートになってるんですか?と聞いた。そうだと店員が答え、Lilacが少女と母親が住んでないか聴いた。店員がああ、MiaちゃんとママのMillyの事ねと言った。LilacがMiaが絵を描くことを知ってるか聞いた。店員は全く知らない様子で、そうなの。天真爛漫で可愛い子ですよね。と言った。LeonもLilacもMiaと言う少女の作品の事を言うのは躊躇って、有難うと言って、店を出た。

外へ出て、建物の上をLilacが何気なく見上げた。Miaと言う少女が2階の窓からLilacの事を見ていた。Lilacが手を振ると、Miaも手を振った。Miaが後ろを向き手で何か合図した。母に何か言ってるのだろう。母のMillyも窓際に来てLilacに、手を振って、その後、手で招く仕草をして指で階段をあがって上にくるようにと指先でLilacに言った。Leonもその様子を見て、二人に手を振って挨拶をした。LilacがLeonにどうすると聞いた。そんなに急に人の家にお邪魔していいのか、二人とも戸惑った。Millyがさらに来て来てと言うような手招きをした。Lilacは遠慮して首を横に振った。Miaが上がってきて~!と大声を出した。二人はじゃあ、ちょっとだけとお互い同意して、階段をあがって二人の部屋へと向かった。

Millyがドアを開けて、二人を待っていてくれた。Miaもその横で嬉しそうに忙しなく動いて、いかにも興奮を隠せない。二人はMillyに握手をして、部屋の中に入った。入るとすぐに空間が広がる明るい部屋だった。窓越しのソファーがシンプルに置かれ、そこからMiaが外を見ていたと見える。玄関を入ってからは、ソファーしか見えない。Millyがどうぞ座ってと言う仕草をした。何か飲みますか?とMillyが手で合図したが、二人は結構ですと答えた。二人が有難うとソファーに座った途端に、入り口から見えなかったドアの左奥に、Miaが描いた絵が床に並んでいた。凄い。ぱっと見て、7つ位全体の絵の様子が見えるのだが、Lilacが7つの絵が7人がここぞのばかりにLilacに話しかけてきたように感じた。声が聞こえるような気がした。色々な会話が聞こえてくる気がした。賑やかな声がLeonとLilacの耳に入って来た。Leonはそれぞれの絵に違う場所が見えるように感じた。マーケットのようなものや、公園や、パリを思わせるものもあった。

Leonが真ん中の絵に強い興味を感じた。Leonが活動してきたウガンダの人里離れた村の光景だと見てすぐ思った。少女が絵の横に走り寄って、二人の顔を見て笑顔で首を傾げた。Miaの表情や振る舞いは得意そうでもなく、ただそこに立って子供特有の自然な振る舞いだ。MiaはLeonが活動してきた街と感じる絵を指さして、たくさん人が住んでて、お水ないから子供もお水取りに川行くの。砂を歩く時、足で模様描けるの。ずっと描けるの。でもお水一杯にして帰ると重いから、落とさないようにって歩くから、模様描けないけど頭動かさないで真っすぐ歩くと重いのが、段々重くなくなる感じする。ここに来るとおばさんがいつも見てるの。座ってて、杖こうやってハーイって言うのと言った。Leonがじっと絵を見つめて、鋭い目となった。心でこの子は、会ったことのない僕を通して、いつかこの絵を見る僕の生活をここから見ていたのかと、あまりのMiaの感覚に言葉を出せないでいた。Leonの頭に自分がその子供たちと水を汲みに行った時の光景が蘇って来た。Miaは自分がしてきた事を、遠く離れたこの場所で見えたのか、自分に会った事もないのに、会う事が分かって、この絵を描いたのかなどと、頭の中が混乱していた。でもふと、もしもあの村の事をニュースかドキュメンタリーで見たとしたら、子供だから、きっとそのイメージが強く残ったのかもしれない。ハーイと杖で挨拶する女性の事は、ともかく、等と勝手に思いを巡らせていた。Leonが唐突にMiaにテレビで見たの?と聞いた。Miaがテレビないよと言った。母のMillyがテレビはもう何年も見てないと言った。ラジオはあるけれど、と言った。Leonはラジオで聞いたのかと心で考えたが、Millyに僕が働いていた場所の光景と全く同じなんです。どうしてMiaちゃんは会った事もない僕の行動が見えたのが不思議でならないと言った。Leonはもしもラジオでウガンダの状況を聞いたとしても、水汲みに一緒に行った時に、必ず帰りに杖をあげて挨拶する女性が座っていた事を知ってるのは自分だけだと心で思って驚いていた。Miaにはそれが見えるのか、または偶然なのか。Leonは戸惑った。Miaがその絵をお兄ちゃんにあげると言った。Leonがホントに?と驚いた。Miaがあげると言ったが、Millyにただでもらえないから売ってくださいと言った。材料費もかかるだろうしと。が、MillyはMiaが好きで描いたのでもらってくださいと言った。何度もいらないと言ったが、Leonは頼み込んでお金を受け取ってもらった。材料費にでもして欲しいと。

Miaが後ろから、他の絵を取り出した。Lilacがあーと声をあげた。子供の頃良く行った母の両親が住んでいた家の光景だ。左の方に、鶏が飼われていた小屋があり、家は藁ぶき屋根の大きな家で、門が左右にあり、それは広い家だった。左の門を入ったすぐ横に牛のような動物が見える。子供の頃従姉妹全員が集まり夜になるまで遊んだ。庭にたくさんの子供が駆け回ってるイメージが見える。Lilacは涙があふれてきた。Miaちゃん、この絵、私がMiaちゃんの頃の思い出と同じよと言った。Millyがあの時メモを拾ってもらった日、帰ってきて、Miaが描いたんです。と言った。Miaちゃんは私と会っただけで私の過去の思い出が見えたのねと言った。Lilacは涙を拭って、本当になんという才能を持ってるのと。Leonの方を向いて言った。Leonが深く頷いた。

Millyが目を細めて、実はと話し出した。MillyがMiaにキッチンに行って、ペリエと、昨日焼いたクッキーを持ってきてと言い、Miaは走ってキッチンに行った。Miaは人の心が読めるだけでなく、これからおこる事も予知できるんですと言った。Miaの父親とは一緒にはならなかったけれど、Miaは誰が自分の父親を分かったんです。Miaの父親は私がMiaを産んだ後に、それを知らずに他の人と家庭を築きました。私もMiaを身籠った事を彼には言わずに、彼から去ってしまいました。生んだことも彼には言わなかったので、後で父親と偶然町で会った時に、Miaは会った事もない男性をパパと呼び飛びつき、彼はショックを受け何故僕に言わずに突然去って行ったんだと、私に怒りました。

Miaがどうぞ~と飲み物とクッキーを持ってきてくれた。MillyはまたMiaに用事を頼んだ。Miaには聞かせたくなかったのだろう。Miaが他の部屋に走って入っていった。Miaが父親と会うずっと前に、白い紙に、男性らしき人が花屋の前で大人と子供と一緒にいるような絵を描きました。パパと言って私に見せました。Miaが初めて父親と会った時、Miaがそれを予知したとその絵を後で見て、はっきり思いました。その後も、これからおこる事を描いた絵を何度か見ました。それからは、描く絵はこれから会う人に受け取られるのだと言う事も、確信し、絵を持って出る日には、Miaに絵を選ばせて持って行っていたのが、不思議な事に、私が選んでもすべて行くべき人の元へすべての絵が行くことは変わらずに起こっています。何の力が働いてそんな事が起こってるのかはわかりませんが、Miaは楽しそうに、いつも絵を描いています。それが行く先をわかってるようで、絵を差し上げるのは絵が語る新しいオーナへの受け渡しのきっかけとして絵を持ってあちこちへ行くようになりました。

Lilacがシングルマザーは大変でしょうと言った。Millyは実は父親からの援助があります。何度も断ったのですが、彼はこれから先も援助をしたいと私たちの生活をする十分なお金を送ってくれています。本当に有難いです。と言った。何故かLeonもLilacも安心した。その方は本当にMilly さんとMiaちゃんの事を今でも大切にしてるのですねと言った。彼に今の彼の生活を壊して欲しくないと言ったのですが、彼の奥さんも心から理解してくれてるようで、本当に有難いですと言った。実は何度もクリスマスや他の機会に招待が来たのですよ。今でも来ます。私は遠慮していきませんが、本当に理解してくださる奥様でそんな彼の子を身籠った時に、尻込みしてしまった私は自分で恥ずかしいです。Miaの父親が素晴らしい男性である事、彼が選んだ女性がまた素晴らしい心の持ち主である事、そんな人にサポートされた私たちは本当に幸せだと思いますと言った。

LeonもLilacもなんだか心が洗わせるような気がした。何て美しい人たちなんだろうと。

LeonとLilacはMiaの描いてくれた新しい作品を持ち、帰路に着いた。なんだか世界が変わったように感じた。家に帰り、絵を床に置いた。その絵を眺めながら、何て純粋な心を持った人達なんだろうと話した。二人の話は尽きなかった。


 6

それから数日してLilacの遅番の仕事の日がまたやって来た。その週末は大きなイベントはないので、客足はそんなに多くなかったが、静かで落ち着いた夜だった。バーに前に見た男性がまた来ていた。静かに一人でバーボンのようなものを飲んでいる。バーテンダーも彼が話さない事を理解してか、今夜は話しかけていなかった。

フロントの仕事は殆ど今夜はないと言っても良かった。月末と言う事もあって宿泊客もかなり少なかった。Leonがホテルにやって来た。Lilacにふらふらと散歩してたけれど、ちょっと君の顔が見たかったので来たんだと言った。LilacはLeonの顔を見て嬉しかったが、時間が少しでも取れればいいんだけれど、10時すぎないと、休憩ないのと言った。あそこのバーでワインでも飲んで、それから帰るよと言った。Leonはバーに行き、右のコーナーに座った。バーテンダーにオーダーした後、バーテンダーと会話していた。バーテンダーも話をしてくれる客が来たので、嬉しそうだった。

フロントにはオンライン予約が立て続けに入ってくる。電話予約もある。夜でも海外からの予約は多い。時差の関係で夜中の電話もある。電話がなり、Lilacは来月来る客の予約に応対していた。忙しくない夜だが、予約は常に入ってくるので、やる事はたくさんある。仕事をしながら無意識にLeonに目線が言ってしまう。気が付いたら、例の男性と話してるのが見えた。その男性もLeonのようにこのバーに来たのだと見える。前回も飲んだ後、ホテルから出ていったので、多分この町に住んでいるのだろう。どこのバーよりも静かなので、一人でゆっくりと飲むには良いのだろう。Leonと男性はその後もずっと話を続けている。Lilacは意外だわ、バーテンダーとも会話をしたがらない彼なのにと思っていた。それから1時間立っただろうか、Leonが男性に何か言って、フロントへとやって来た。もう帰るね、無理しすぎないように。と言って、帰っていった。キスをするのが当たり前だが、仕事場なのでそれは控えた。

Leonが帰った後、男性も、ホテルを出て行った。顔を前から見る事が出来たのだが、とても親しみのある顔に見えた。どこかで会ったのかな?とLilacは思った。

Lilacは夜中、家に帰り、ベッドに直行した。Leonも目を覚ましたが、お帰りお疲れ様と、優しくキスをして肩をさすり、ゆっくり寝てと言って、眠りについた。Lilacもすぐ深い眠りについた。

Lilacは朝11時頃までぐっすりと眠った。起きた時、Leonは外出していなかった。遅いコーヒーを入れて、コーヒーをベランダから反対側のサイドウオークを見ながら啜った。MiaとMillyがいる事を期待したが、その様子はなかった。それにしても、Miaが私やLeonと会う事を予測して描いた絵が今ここにある事が不思議でならなかった。

Miaの才能に関心すると同時に驚異を抱いていると言うのが本音だ。彼女は今私のしてることも見えるのかしら。考えてることも分かるって事?と色々想像してしまう。

持って帰った実家の絵に目線を送った。あの時は気が付かなかったが、家の中にも人がいる。両親と祖父母と叔母叔父なのかな、たくさんの人がぼやっとした中にいる。あの時は子供たちや全体の絵だけに目がいっていたので、気が付かなかったのだろう。Miaは大人の数まで見えるって事なのか。この絵の内容を知っているのは私しかいない。私と会った後にこの絵を描いたMia私を通して、私の中のある強い記憶の子供の思い出が見えたのだろう。改めて絵を観て、あの頃の小さい時の自分に戻っていた。

Leonが帰って来た。よく寝てたので、外出してたと言った。Lilacにサンドイッチとサラダを買って来てくれた。

二人でランチにサンドイッチを食べながら、Lilacが昨日、バーで何話してたの?と聞いた。Leonが他愛無い話だよ。それと絵の話もしたんだ。バーテンダーはビジネスライクで、そんな事もあるんですか~と全く信じてないような応対だったけれど、バーに居た男性は、興味持って、信じた様子で聴いてたよ。Lilacが前にもあのお客さん来た事あるけれど、何だか深く考えてるような人でバーテンダーとも話したくない様子の印象があったのよと言った。カウンターから見てるだけで、何だか深く何かを思ってるような雰囲気が伝わって来たのでと言った。

彼は僕の話を深く信じてるように、聴いてたよ。Miaちゃんの事を話すと、興味深く少し微笑みながら僕の話に聞き入ってたよ。と言った。


MillyはMiaのそれぞれの絵の内容を全く分からないが、絵が持ち主の元へ行く為にMiaが絵を描く事は、Millyも持ち主が現れるまで、母親なりに色々想像したりしてしまう。Miaがまた絵を描いている。鼻歌を歌いながら、体を動かして、まるで遊んでいるように、落書きするように描いている。それがMiaがいつも絵を描く時の様子だ。カラフルなバックグラウンドの背景に、3人の人のようなシルエットが描かれ、そこから筋のような白い道が浮き上がってるような絵だ。この絵もきっと誰かの手に渡るのだろうと、Millyはそれが誰なのか想像もしなかった。


 7

それから1週間が経った。Leonが仕事に戻るのも後2週間ほどだ。二人ともあっという間に幸せな時間が過ぎるといつも思う。Leonも新しい仕事場所へ行くために、準備を少しずつ進めていた。今日はまたLilacの遅番の仕事日だった。Leonは数回Lilacが遅番の時にホテルのバーに行ったが、今日は新しい仕事場所のスタッフとのズームミーティングあるので、仕事尽くめになりそうだと言った。ホテルは週半ばで、かなり混み始めていた。週末に大きなコンフェレンスがあるので、たくさんの客が徐々にこの町にやってくる予定で、ホテルは殆ど満杯なる予定だ。久しぶりに例の男性がバーにやって来た。他にも客がいて、カウンターは殆ど満杯だった。心なしか、後ろを振り返ったりして、おそらくLeonを待ってるのかなと、Lilacに想像させた。バーテンダーとも少し話をしている。前には殆どバーテンダーとも会話をするのを避けてるか、興味がなさそうだったのに、今日は会話してるのが見れる。バーテンダーはLeonとLilacが知り合いである事をわかっているはずだ。ここへ来る度に、LeonはLilacに挨拶に来るので、Leonが二人の関係を言わなくても、自然と想像が付くと思う。少しして、Leonがやって来た。Lilacにズームが中止になって、食事もできなかったので、ここへ来たと言った。バーへ行き、例の男性と笑いながら挨拶を交わして、メニューに目を通して、バーテンダーに何か注文した。カウンターが一杯なので二人はバーを離れ、近くのロビーのソファーへと移った。その日もLeonは1時間半位、バーでその男性と会話を交わし、帰って行った。Leonが帰った後は、いつも仕事が長く感じる。

例の男性が、Leonと別れた後、席を立ち、こちらへ向かってきた。Lilacに彼はとても良い人だねと。唐突に言った。Lilacは思わず、ええ、と言った。とても優しい笑顔の男性だった。今度君も会話に参加できるといいのに、と言った。仕事中は、バーに座ることも許可されてないのでと、言うと、どこかで3人で食事でも、どうかな。と言った。Lilacはちょっと驚いたが、帰ったら、彼にも聞いてみると言った。

次の日、お昼ごろに起き、Leonにバーの男性が話した事を話した。Leonが彼は僕と君の事が分かったんだねと言った。Lilacは誰でもわかるわよ~と眉をあげて行った。どうする?Leonが別に構わないよ。彼はとても良い人みたいだ。海外の情報にも凄く詳しく、会っても別に害があるとは思えないし、構わないよと言った。じゃあ、この次来た時に、そのように伝えるわとLilacは言った。

その数日後の遅番の時バーの男性に伝えた。Leonの仕事始めも間もないので、明日の夜にすぐホテルの近くのレストランで会わないかとの事で、Leonも承諾し、3人で会う事になった。

レストランは、多国籍料理エスニックレストランだった。気楽な雰囲気の場所で、世界のあらゆる国を想像させるカラフルな店内だが、センスのあるインテリアだった。男性は二人よりも少し後に到着し、握手して挨拶を交わした。

男性はこのレストランに良く来るようで、ウェイターがいつもの席でと3人を案内した。

窓側でなく、落ち着いた中ほどの壁の席だった。

男性が、今日は来てくれて有難う。とまずお礼を言い、僕の名前まだ言ってなかったよねと言った。Paulです。環境関係の会社に勤めていると言った。LeonもLilacも簡単に自己紹介し、メニューに目を通して、注文した。

Paulが、ホテルは本当に落ち着いていて、好きだとLilacにホテルの事を話し出した。もう何年通っているかなと、頭の中で考えて、7、8年くらいになるかもしれないと言った。Lilacがそんなにホテルにいらっしゃってるんですか。と意外に思った。確かにLilacがこのホテルへ移って来たのは、2年前だから、その前から常連だったとは思わなかった。Leonにはこの次の活動の準備はできたかと、当たり障りのない会話から入った。

LeonもLilacも会って間もないPaulが二人を食事に誘うのは、何か目的があるのではないかと、お互い話さないが心で思っていた。Lilacは何かの勧誘とか?とチラッと頭の中で考えていた。

ワインとアプタイザーが届き、今日こうやって3人でここで集まった事とあたしい友情に乾杯とPaulが言い、3人が乾杯した。LeonもLilacも純粋に、乾杯のPaulの言葉通りに乾杯した。

Paulが、実は聞きたい事があるんだと言った。Leonに君が言っていた絵を描く少女の事だけれど、と話し出した。LeonもLilacも意外だった。仕事の話かなにかと思っていたので。Paulが、その子は5歳位?と聞いた。二人ともそうだと答えた。その子には家族がいるかと聞いた。耳の不自由なお母さんがいるとLeonが答えた。

その子に父親はいるの?と聞いた。Leonが何でそんな事聞くんですか?と怪訝な表情になった。LilacがもしかしてPaulさん彼らを知ってるの?と聞いた。

実は、会って間もない君たちに話すのは何なんだけれど、僕には娘がいるんですと言った。母は耳が不自由で。と言った。

LeonもLilacもあなたがMiaちゃんのお父さんなんですか!と同時に少し大きな声で言った。

PaulがMiaと言うんですかと言った。Leonがお嬢さんの名前も知らないんですか?Millyさんとは連絡はしないんですか?と驚いた。

Paulが、Millyの希望だったんです。実は娘が生まれる前にMillyが突然別れを言い出して、僕は動転しました。Millyはごめんなさいの一言で、僕は本当にショックでしたが、彼女の事を心から愛していたので、彼女が自分から別れを言うのはよほどの事だと、Millyの幸せを祈って、彼女の事を諦めました。まさかその時Millyが僕の子供を身籠っていたとは全く知りませんでした。心からお互い愛し合っていると思っていたので、ショックは計り知れませんでした。Millyの事を自分なりに過去の事として、忘れる事を努力して、心の中で彼女はどこかできっと僕といるよりも幸せな人生を送っているのだと思えるようになって、それから家内と出会い、結婚しました。彼女もとても優しい女性です。ただ子供には恵まれませんでしたが、お互い信頼しあい、とても良いパートナーに巡り合ったと僕は思っていました。

実は2年前に花屋の前で偶然に、小さな女の子を連れたMillyとすれ違いました。お互いあまりの急な再会で、なんと言っていいかわからず、呆然と立ち尽くしました。その子は僕の事を、パパと言ったのです。Millyは、女の子に怒って、何を言ってるのと言いました。僕には直ぐにわかりました。その少女が僕の娘であることを。僕は何故この子のことを言わなかったのかと言いましたが、Millyはその時何も言わずに去りました。その後、友人を頼りに、Millyの連絡先を探し、電話をしてもしも自分が父親なのであれば援助がしたいと申し出ました。正直、二人の装いは、どう見ても裕福には見えず、生活に困窮していると思えたので。Millyは僕に去った事情を話してくれました。自分の耳が不自由な事で僕の家族の大きな反対を受けると考えて、彼女は自分から身を引いたんです。援助に関しては、今の奥さんに悪いと、受け取れないと言ったのですが、その後家内の承諾を得て、Millyも納得し、受け入れてくれました。ただあの花屋の前で1回娘に会ったきり、Millyは僕と娘が会うのを’許してくれませんでした。多分家内への計らいだと思います。娘の名前はMiaと言うんですね。Millyらしい。きっとMiaには僕の写真を見せて父親である事を言っていたんでしょう。Paulが言った。

LeonがMillyさんはPaulさんの写真を一度もMiaちゃんに見せたことないと思いますよと言った。Lilacもそうだと思いますと言った。Paulが、じゃあ、何故Miaは僕の事がわかったんですか、と少し責め気味に言った。LeonがMiaちゃんには第6感のような誰にも持っていない鋭い感性があるんです。実はMillyさんから事情を聴いています。他人の僕たちがMillyさんからあなたの事を聴いたのは、Paulさん複雑かも知れませんが、Miaちゃんは人の生活や過去や未来を見る事が出来るんです。だから僕の活動先の街の様子や、Lilacの子供の頃の母の実家の思い出の光景をLilacと一度会っただけで描いたんです。それよりも先に話すべきですが。僕たちに会う前に、僕たちがMiaちゃんの絵のオーナーになる事をMiaちゃんは前もって予知して絵を描いたんです。その絵が僕たちの家に来ることになる事が分かって、僕のアフリカの活動場所の光景を、絵の中に描いたんです。そして、Lilacの未来の夢の場所も予知し、絵にした。Lilacに偶然道で会い、Millyさんがノートの切れ端を落としたことで、Lilacが声をかけ、それが切っ掛けで、Millyさんは何も知らずに、持っていた絵をLilacにお礼としてあげようとした。Lilacはただではと見せてくれたもう一つの絵も買う事にして少しだけお金を渡したのですが、そのもう一つの絵が、僕の事を予知した絵だったんです。

Paulは呆気にとられた。開いた口がふさがらないと言うのはこの事で、目を見開き、口を開けて、Leonの話を聞いてた。

Millyさんはあなたの事も心から感謝してると言っていました。ただPaulさんの家族にだけは迷惑をかけたくないと、あなたが仕送りしてくれる事の本当に感謝していましたよ。奥様も理解してくださっていると。

Paulが、実は家内は、どうしても離れて生活がしたいと離婚を言い出しました。僕が嫌なのではなく、自分の新しい人生を歩きたいと、子供がいなかったのも原因の一つかもしれません。僕は悪いところがあったら直すからと言ったのですが、家内はそういう事ではなくて、僕が好きだけれど、自分の人生をこのままでは終わらせたくないと、自分の専門のキャリアを追求し、後悔しないように生きたいと自分で生活して行くことを選びました。ただ彼女は弁護士なので、結婚と言う形に束縛されたくなかったのではないかと、、

Leonがそうだったのですか、辛かったですねと言った。

Paulは、僕は女性の心をしっかりととらえることが出来ない人間なんだと心から実感しました。ただ、家内の決断は、MillyとMiaの存在が根底にあったのではと僕は考えてしまいます。家内は一度もMillyとMiaの事に不満を言った事はないですし、いつも二人を何か機会がある時に、招いてほしいと僕に強く頼んでいました。別れた家内は今とても充実してるのが見てわかります。彼女は僕がいなくてもしっかりとこれからもさらに飛躍して、上へ上へと行くと思います。彼女の才能は計り知れません。

 Millyが僕の立場を考えて、自分の耳が不自由な事で、身を引いたことを知った時は、ショックでした。何でそこで調べなかったのかと。僕はMillyを心から愛していました。今でもです。出来れば、MillyとMiaと一緒に暮らしたい。とPaulが真摯に二人に打ち明けた。

LeonがPaulさん、僕たちがMillyさんに話しましょうかと言った。Paulはそんな事できますか?Millyが拒否するかもしれないと言った。Lilacがもしかしたら、Miaちゃんがチャンスを導いてくれるかもしれないと言った。LeonもPaulもそれに関しては、そんなにうまく行くかなと疑問の気持ちでLilacの話を聞いていた。

取り合えず、お互い電話番号を教えあった。


 8

LeonとLilacはMillyの元を次の日訪れた。LilacはMiaは私たちが何故来たのかもわかってるのかもしれないと心の中で思っていた。Miaが2階の窓からいつものように外を眺めていて、二人を見て、嬉しそうに中へ引っ込んで行った。Millyに伝えているのだとわかる。Lilacは途中のケーキショップでとても可愛らしい、動物の形のクッキーとケーキを買い、二人に持ってきた。Miaがとても嬉しそうに、キャーキャー言いながら、熊やうさぎや象、犬などのクッキーを並べ始めた。

Lilacが紅茶を入れて、持ってきてくれた。Leonが早速、Millyに実は今日は話があるんですと話を始めた。Millyは全く予想してないようで、ニコニコしながら、何かしらと言った。

Paulさんと会いました。と率直にMillyに言った。Millyは口の動きですべて読み取れるので、即顔色が変わった。元気ですか?とMillyが聞いた。LilacもLeonも一緒に元気ですよと答えた。Millyが微笑んだ。良かったと付け加えた。どこで会ったの?とMillyが聞いた。Lilacが私の働くホテルですと答えた。Leonが経過を話し、PaulがMillyとMiaと暮したいと言ってる事も伝えた。Millyが首を何度も振って、考えられないと言った。どう返事をしたらいいのか、どうしたらいいのかわからない様子だった。

Millyの中では今更と言う気持ちと、別れた奥さんに悪いと言う気持ちや、これからの不安などあらゆる気持ちが交差し、マイナスな事ばかり頭の中を過り混乱した気持ちだった。

LilacがPaulさんはあなたを今でも心から愛していますよ。と言った。Millyの目が涙で潤んだ。LeonがMillyさん、Paulさんと会って見ませんか?お互い話しをするのが一番だと思いますと言った。Millyは暫く返事をしなかった。

Miaがキリンの形のクッキーをMillyに持ってきて、パパにこれあげるの。と言った。Millyの目から涙が溢れた。MillyはMiaを抱きしめた。

Millyの中には後悔の念がある。Miaと父親を自分の判断で引き離してしまった事を。Miaは今まで父親なしで育ってきた。LilacがMillyさんMiaさんの為にも、Paulさんと会ってくださいと言った。Millyが頷いた。

その2日後、ホテルに近い、小さな静かな公園で皆で会う事にした。Millyの提案で、LilacとLeonも一緒に来て欲しいと言う事になった。

4人が公園に行くと、Paulが噴水のそばで待っていた。PaulがMillyとMiaを見て、すぐ駆け寄り、Millyの手を両手で握った。PaulとMillyの目は涙で溢れた。言葉にはならなかった。

そしてPaulはMiaの前でしゃがみ、Miaの手を握った。Miaが自分のスカートのポケットに手を入れ、キリンのクッキーを出して、パパの。とPaulに渡した。Paulは声を出して泣いて、Miaを強く抱きしめた。Miaを抱きかかえ、立ち上がり、Millyの事も抱きしめた。

MillyもPaulを泣きながら抱きしめた。Miaがまたポケットに手を入れ、うさぎのクッキーを取り出し、Millyに渡した。PaulもMillyも何の言葉も交わさなかった。言葉に出さなくても、二人の心の中は言葉なしにも自然と伝わった。Miaのあどけない笑顔が二人の再会をまるで自然の流れとして、まるで昨日までと変わらない家族の姿であるように感じさせる。

3人は、LeonとLilacに、本当に有難うとお礼を言った。LeonもLilacも涙に溢れていた。Miaがまた反対のポケットから、二つ、くまとリスのクッキーを取り出し、LeonとLilacに渡した。二人は、Miaちゃん有難うと言って、受け取った。

PaulとMillyとMiaはLilacとLeonに別れを言い、その後Millyのアパートへと向かった。MillyはPaulの子供であるMiaの才能をPaulに見てもらいたかった。Miaがある絵を持ってきた。そこには鮮やかな緑の背景に4人の大人と一人の子供の人間のシルエットが描かれ、それを囲むようにキリン、うさぎ、くま、リスと鳥の形のようなシルエットが描かれていた。

Miaがポケットからクッキーを取り出し、鳥の絵のそばに並べて見せた。

Paulがこの絵はいつ描いたの?と聞いた。Millyが半年前くらいだと答えた。MiaはLeon, Lilacに会う前から、この日が来ることを予期して、この絵を描いていたのだった。もう一つの絵には、大きな家のような背景に、二人の大人のシルエットと、二人の子供のようなシルエットが見える。二人の子供の一人はとても小さい、シルエットだった。

それから1年後にMiaの弟Roneyが生まれた。


LeonとLilacはそれから1年後に籍を入れた。Leonの仕事は変わらずのボランティア活動だが、前のように長く活動する事を減らし、短期間の2週間程度の滞在に変わった。Lilacはホテルの仕事を辞め、MillyとMiaが住んでいたアパートの1階のギャラリーをオーナーから引き継いだ。Lilacのマネージする新しいギャラリーの窓のディスプレーのは、Miaの作品が幾つかかけられている。中にもMiaが自分で選んだ作品が展示されている。

MillyとMiaが住んでいた2階の部屋は、Paulがまだキープしたいと、Miaのアトリエとなった。あれから数年たち、少し成長したがMiaの絵の感性は変わらない。ギャラリーに飾られるMiaの絵が長く店内に展示する事はない。絵をディスプレーすると、間もなくしてその絵が行く先の客が買いに来る。それなので、絵のディスプレーは瞬時変わる。ただ一番奥の壁に掛けられた絵達は誰も買う事がない。Miaが家族を描いた絵だからだ。その壁にはLeonが初めてPaulにLilacが働くホテルで会った日の絵から、3人で食事をした絵、そして公園でのPaulとMillyとMiaの再会、そして弟のRoneyが生まれた日の様子など様々な絵がかけられている。そして、幾つかの絵はこれからの未来を予期したものと思える。

その中に、水色の海のような背景の絵に、大人4人と、子供が5人遊んでるような光景の絵がある。その片側の家の中に、絵がいくつも見える。Lilacが夢に描いている海沿いの街で暮らす絵なのかもしれない。LeonとLilac, Paul とMillyそして、MiaとRoneyと、さらに3人の子供が加わっている。Miaに妹か弟か出来るのか、それともLeonとLilacが3人の子供を授かるのかは、今の時点では誰にもわからない。Miaがそれを今わかっているのか、その時になってわかるのかも、分からない。Paul、MillyさえもMiaに絵の内容に関して聞く事はしない。その絵が、自分たちに直接メッセージを投げかけてくる日は、必ず後で訪れるのだから。

Miaはまた嬉しそうに、鼻歌を歌いながら、絵を描いている。その絵がまだ会った事のない、絵の持ち主に出会うために。














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