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Yuko hagos

小説 ''エリカとクリス''

Updated: May 29, 2023

エリカは夕食を終えた後、窓を開けて外の空気を味わった。冷たい夜の風が何とも気持ち良い。ワインを少し飲みすぎたかなと自分に言った。ぼうっと町を見ながら明日会うクリスの事を考えていた。クリスは感じの良い人と言う印象で、ときめくような感情はエリカは持っていない。毎週受けているヨガのクラスに参加しているクリスがクラスの後に一緒に食事でもしない?と尋ねた時に彼の事など考えずに食事に誰かと行くのは良いなくらいにしか考えずに、いいわねと返答した。友達に会う感じでとエリカは考えていた。エリカも今まで何人もの男性との付き合いがあった。ただ誰もエリカにこの人だと決断させる部分がなく、関係はすべて自然消滅に終わってきている。エリカ自身面倒な事は嫌だと、適当に距離を置きながら皆と付き合って、自分の生活を第一に考えてきたのでそれがエリカにとっては理想的な男性との関係だった。できれば会いたいときに会って、自由になりたいときは、そおっとしておいてもらいたかった。ただ付き合いはそう簡単には行かない。お互い相手を所有したいと言う気持ちが両方で同じようにあればうまくいくのであろうが、今までの関係はすべてどちらかがその所有欲が強くうまく行かなかった。でも今は年を重ね、自分の自由な時間、相手を尊重する時間を持つことは当たり前になって付き合い安くなったのではないかと思っている。明日のクリスとの予定を考えることなくいつも通りにエリカは床に就き、好きなバックグラウンドミュージックをかけながら眠りについた。


翌日、仕事はとても忙しかった。いつも以上に書類が多く今夜のことをさらに忘れるくらいにすることが多かった。やっと仕事を終え、クリスとの待ち合わせの場所へ向かった。エリカは全くときめかなかった。以前の何人かの男性の中には行く前の日から眠れないくらいときめく相手もいた。待ち合わせ場所に行くともう、クリスは待っていた。清潔な装いで笑顔でエリカを迎えてくれた。来てくれて有難うとクリスが言った。エリカは誘ってくれて有難うと返答した。このレストランはとても美味しいイタリア料理を出すんだよとクリスが言った。イタリア料理は大好きよとエリカは答え、店内へ入った。窓側の良い席にウェーターが案内してくれた。何を飲む?とクリスが聴き、あなたのお勧めのワインをお願いと言って、クリスがシシリー産の赤ワインをオーダーした。サラミとチーズのアプタイザーでワインを堪能しながら、クリスが仕事は忙しかった?と聞いた。ええ、とても忙しかったわ。仕事の量が半端じゃなかったのとエリカが言い、あなたは?と聞くと、クリスは今日はそんなじゃなかったな。まあ普通かなと言った。趣味は何?とクリスが聴いた。エリカは心でお決まりの会話と思いながら、テニスをするのが好きよと言った。クリスが、え、偶然僕もテニスをするよと言った。今度一緒にしようよとクリスが即提案した。エリカは良いわね。と答えたがそれ程クリスの腕を期待はしていなかった。聞かれたので良いわねと答えただけだ。その時間を作るのも面倒に思えた。音楽は何を聴くの?とクリスが聴いた。エリカは心で全く面白みがない質問とささやいた。エリカが色々聞くわと答え、クリスもジャズがメインだけれど、クラッシックもポップもワールドミュージックを聴くと言った。エリカは当たり前の質問だわ、もっと気の利いた会話はできないのかと心の中で思っていた。楽器は演奏するの?とクリスが聴いた。エリカはクリスに、しないけれど、何だか質問がお決まりで意外性がないわとクリスにダイレクトに言った。

クリスはショックを受けた様子で、ごめん。そうだよね。僕は当たり障りのない質問をする方が最初から図々しくなくて良いかなと思ったんだよね。じゃあ、もう仮面を被るのはやめるよと言った。それじゃあ、やり直し。君はどんな人なの?と突っ込んできた。エリカはあまりに率直で、何と答えたら良いかわからずに、あなたからどんな人なのか言うべきよと言った。クリスは、僕はクリスだよ。僕のしたい生き方をしてきた人間って返事かな。ただテニスは昔からやってきたので、真剣にやってたと言った。一時はプロのなるつもりでそれはそれは入れ込んだと言った。エリカは私は新しい事が好き。何か新しい事を見たり経験するのが好きよと言った。なんだか知らないことを知ったときは何か得したような気になるし、常に新しい事を探してると言っても良いわと言った。クリスはエリカの性格が良く表されてると思った。新しい物好きかとクリスは心で思った。エリカはテニス以外に何をするのが好きなの?と聞いた。僕は料理が好きで、ニュースを聞いて、本を読んでってところかなと言った。エリカはふーんと心で思った。あまり特別な印象は受けなかった。クリスが今まで海外に行ったことある?と聞いた。エリカはメキシコとヨーロッパくらいかなと言った。あなたは?と聞くとクリスが、ピースコープでケニアに行ってたのをはじめに、この仕事に就く前に、20か国くらい世界を回ったよと言った。エリカは好きなことをしてきたって言うのはこういう事なのかと考えてた。エリカが心でクリスは面白い人かもしれないと思い始めた。その国の中で一番印象的な国を挙げるとしたら?と聞いた。うーん難しい質問だなあ。考えさせられたって意味での国だと、アフリカの国々で、リゾートとしてならインドネシア周辺の国は海が美しかった。正直ヨーロッパの先進国は印象があまりないけれど、ポルトガルやハンガリーなどは、違う風に想像してた。エリカはこの人興味深いわと再確認した。クリスの事を昨日とは全く違うように見る自分に気が付いた。人は話をしてみないと分からないものだ。エリカの中にクリスの未知の部分が感じられ、付き合うのは面白い人かもと思い始めた。


クリスがじゃあ、君が一番印象に残ってる海外の国は?と聞いた。エリカは、うーん最初に言ったヨーロッパのフランス、ドイツ、オーストリアかな?他行ったことないから若い頃幼馴染と行って珍道中ですごく楽しかった。まだ若かったから、子供が知らない国見てキャーキャー感動するような感じだったからかもと言った。国の印象と言うよりも、友達と初めてのワインを楽しんだり、酔っぱらてホテルのルームで意味なく楽しくて泣きだしたりとそんな若い頃なら出羽の時を過ごしたからなのと言った。クリスがそれは本当に楽しかっただろうね、と言った。エリカがピースコープはなぜ行く気になったの?と聞いた。クリスは若い頃に自分を全く未知の場所に放り出して、自分がそれをどういう風に乗り越えるか試したかったからだと言った。エリカがボランティア精神が先ではなくて?と聞いた。結果的にはそうなるんだろうけれど、僕はボランティア活動をする目的よりも自分が影響を受けたいって方が強かった気がするよ。経済的やサポートが必要な人たちへのボランティア活動は僕たちのような恵まれた環境で育った人間が当たり前にすべきことだと思うよ。自分が恵まれて育った環境は自分の国だけの恩恵ではなくて、世界中との関りがあって、今に至っているわけで、ラッキーな立場に生活できる分、それを分ける義務があると思うよ。ボランティアでその地域の人たちを援助するって事だけれど、先進国で育った人間は彼らから受ける影響の部分の方がずっと大きいと思うよ。彼らが僕の人生への行く先を手助けしてくれたと思ってるよ。最初はたった2年だったけれど、まるで生まれてから違う家族に改めて育てられたかのような経験だったな~。自分は先進国で育って何でもある社会で育って、でも実は本当に人間の基本を全く知らなかったのだとつくづく考えさせられたよ。エリカはじっとクリスを見つめて聴いてた。クリスが、なーんて大げさだよね。良く言うが、能ある鷹は爪を隠すとはこう言う事を言うのかもしれないと心で考えていた。エリカは色んな人たちと触れ合って、数知れない経験をしたのでしょうね。と言った。そうなのかなあ。その時は毎日しなければならないことをしてただけで、失敗も確かにたくさんあったよ。感動も。すべて良い思い出だよ。クリスがしみじみと言った。


クリスは、僕の事ばかり話してしまって、君の事も知りたいな。と言った。エリカはあなたに比べると私は平凡な人間よ。当たり前のことが好きで、当たり前の行動して、平均の中の平均並みの生活してるわ。と自分はつまらないと言うような言い方で言った。クリスが、ふーん、平均並みか。当たり前、平均並みって何だろうと天井を見上げて少し首を傾げた。エリカはクリスがとぼけてそんな事を言ってるのかと思った。クリスが当たり前って、どのくらいが平均なのかなあ。と聞いた、エリカは冗談だと思って、エリカも冗談のつもりで当たり前の平均並みくらいよと言うと、クリスが平均と言う事は、極端ではないって事なんだろうけれど、僕にはその基準が全く分からないなあと本気で言った。エリカもそう言われると、基準なんてそれぞれの違いが基準であると考えると、様々よねと言った。クリスはそうだと思うよ。君の価値観、僕の価値観は違うでしょう。家族でさえも違う。ただ物事に対しての取り方には似てるものと、正反対の人間がいるのは事実で、それを平均並みとグループ化するには無理がある。エリカが、例えば?と聞いた、例えば、人を援助するボランティアが必要だと考える人間と、ボランティアはすべきではない。人間それぞれ違う運命で生まれてきた訳で、その人の運命を変えるからと考える人間もいる。エリカがそんな人がいるの?ボランティアを重要に思ってない人はいるだろうけれど、する必要はないと考えるなんて、人間じゃないわと言った。クリスが実際に何人かに出会ったよと言う。エリカがその人たちって変わり者とか?と聞くと、世間でも名高い職に就いてる人たちなんだよとクリスが答えた。エリカがそれって恐ろしいわと言った。そう考える人たちの意見もそれぞれが微妙に違うんだ。エリカが、首を横に振りながら、人間って、育った環境で大きく変わるだろうし、持って生まれた性格もあるしって事なのかしらと言った。クリスは自分の利益を優先し始めると、徐々に自己中心になる傾向があるよね。自分優先と、自分の利益優先とは大きく違うわけで、正直この世界が後者の自分の利益優先の人間が経済的に取り仕切ってるから、格差が大きく生まれるんだって思う。その人間達は世界中のメディアもコントロールできるから、経済的にトップから最下位の状態にいる人たちをすべて数えると平均化なんて不可能だと思うよ。でもメディアはトップをさらに儲けさせるために平均化させて、人間をその平均に居れば問題ないと精神的にコントロールする。そして人間はその平均された物を購入したり、皆がすることをしてると安心するような気持になるけれど、それはコントロールされているからなんだって思うよ。エリカは目を丸くした。そこまで深く考えたことなんてない。エリカが私はそのコントロールされた中に生きてるわけ。今話題になってるお店に行かないと、話題になってる食べ物まだ食べたことがないわや、話題の映画を見ないとと、自分の次にすることは皆がしてることを選んでるもの。と言った。クリスは僕も見たい映画は見るし、食べたいものは食べるけれど、皆が行くお店に行くとかその意味が良くわからない。でも君がどうしてもそれが食べたいと思うならそれは君がしたい事な訳だよ。二人は何でもなく行ってる日常の行動をそれぞれの考えから述べ合った。エリカが私こう言う会話って好きよと言った。クリスが笑った。


エリカはクリスに対する先入観がどこかへ消えてしまい、また会いたいと心から思った。クリスが、‘’明日は仕事?‘’と聞いた。エリカが‘’ええ、でも5時に終わるの‘’とその後に会えることを示唆した。クリスが、今ダウンタウンで、エチオピアのアーティストの絵画展をやっていて、見に行こうと思ってるんだけれど、興味ある?と聞いた。エリカは、‘’ええ!是非私も見たいわ‘’と答えた。それじゃあ、明日仕事が終わったら、電話して、僕は絵画展の会場の前で君が来れる時間に待ってるよと約束をした。

エリカは家に帰り、とてもハッピーだった。行く前には気が重かったのが、人は見掛によらないものねと独り言を言いながら、一人でにこにこしながら、床に就いた。クリスとの新たな会話が待ち遠しかった。聞きたいことが山ほどある。

クリスは家に帰り、コンピューターをチェックしてメールにボランティア団体からのメッセージが入っていた。今もボランティア団体で働いているが、オフィスワークと国内でのスピーチやイベントが主体で海外で活動することはない。シカゴでのイベントの予定が送られていた。学生への体験談のスピーチの依頼だった。学生とのイベントの時にはイベントが終わると、質問が止まらない。ただその中にボランティア活動だけでなく、個人的な悩み相談がたくさん持ち込まれれる。どんな悩みもボランティア活動から学んだ事の体験談が役立つ。そして若い人たちの悩みが痛いほどわかるので、この仕事が心から自分にあってると感じる。

翌日エリカは、日中クリスの事を何度か考えた。昨日は会う前全く気が乗らずに待ち合わせ場所で行ったのに、今日は会うのが待ち遠しい。エチオピアのアート展示会に誘うなんて彼らしいと思った。映画や行ってみたいバーとか人並?ではない所がクリスらしい。映画もバーも人並じゃないって事なのよね、彼にするとと思って、微笑んだ。エリカは昨日からすっかりクリスのペースに変わりつつあることを感じた。自分の生き方ね、それって当たり前のようで、殆どの人が周りに影響されて生きてるのよねと心の中で考えて一人で納得した。

仕事が終わってすぐに、会場に向かうタクシーの中でクリスに電話をした。会場までは15分とかからないので、自分の方が先に着くだろうなと思って、会場の前でタクシーを降りた。クリスはもう既に、会場の前に立っていた。中を覗き込んで、なんとも言えなく自然に立っている。ヘーイ!とエリカに近づき、腕を触った。エリカは笑顔で、ハーイと答えた。ここなのね。結構人がいるのね。と言って、二人は会場に入った。アーティストらしい男性が、ハローと歓迎のあいさつをしてくれた。クリスがあなたの展示会?と聞くと、そうですと言って、歓迎します。何か質問があったら何なりと聞いてくださいと言った。クリスとエリカは会場内を左からゆっくりと見始めた。カラフルなアフリカなら出羽の自然を感じる背景に人が日常の物事をしてる作品が並んでいる。皆民族衣装を着ている。行ったことがないエチオピアが頭で想像できるような絵だ。

クリスが画家にこの作品はバハルダーですねと言った。バハルダー出身ですか?と聞くと、アドゥワ出身ですと答えた。クリスがティグリアンですねと言うと、画家が顔を明るくしてエチオピアに詳しいですねと言った。


以前ボランティアでゴンドルに数か月滞在したことがあるのでと言った。エリカはまた驚かされた。アディスの発展は目覚ましいですよねと言うと、本当にその通りですよ。ただ将来何が起こるかわからないのは、アフリカのどこも同じなのは否めないなと言った。クリスが数回頷いた。画家がゴンドルは3つ目の作品ですと引率した。これはキャッスルですねとクリスが言った。懐かしいなあ。エリカに僕はゴンドルで陶芸を町の人に指導したんだよ。その作品が続いているなら今でもこのキャッスルの一部にあるんだけれど、今はどうだろうなと言った。画家が今でもありますよ。そうだったんですか、君が伝授した陶芸は今でも続いていますよ。旅行者からの収入の糧ですからね。今でもキャッスルに募金箱と作品が並んでますよ。僕も寄付しましたよ。作品は持ってこなかったけれど、海外を旅行するのでと笑った。クリスがそうかあ、嬉しいなあ。あの頃に教えたお母さんたちの子供たちは今は大きくなったんだろうな。画家が母から子供へと陶芸は受け継がれてきてますよと言った。クリスは何とも言えない幸福感を感じた。エリカはそれを聞いて感動した。行ったことがないけれど、絵の光景からゴンドルの様子と、そこで町の人に陶芸を教えるクリスの姿が、映画のように頭に浮かんだ。そしてそれを学んだ人たちが自分の子供たちに伝授し、子供たちがクリスの陶芸を受け継いで作ってる姿が何故かはっきりと浮かんでくる。いつかクリスと行ってみたいと思った。


クリスがいつか一緒に行きたいねと、エリカの心を読み取ったかのように言った。エリカが是非行ってみたいわと答えた。その陶芸をこの目で見ていたいわ。クリスが微笑んだ。

全部の作品を画家の説明で終わり、クリスがゴンドルの絵を買いたいと画家に言った。値段は300ドルだった。展示が終わったら手渡すと言う事で、早速画家が、SOLDの札をピンでつけた。エリカも素敵な作品ね。クリスに心から言った。


会場を出て、食事でもしようと言う事で、近くの気楽に入れるレストランへ入った。エリカも以前は話題のレストランを好んで入りたいと思っていたが、クリスと出会って、そんな気持ちが全く変わる自分に驚いた。近くの気楽に入れるレストランをどちらからともなく選んで一緒に入っていった。まるでお互い話さなくても行きたいところは一緒であるかのように。

クリスはサーモンのディナーと、エリカはベジタリアンリゾットをオーダーした。食事を終え、ワインで会話を楽しんだ。

エリカがクリスは、本当に映画のような人生を送って来たのねと言った。クリスが目を大きく広げて、何でそう思うの?映画なんて大げさだよ。ただ右へ行ったり左へ行ったり、真っすぐには歩いて来なかったのは事実だけれどねと笑った。エリカが素敵だと思うわ。本当にあなたが言ったように、平均並みとか、普通とかってそれって枠から出ない人間が周りにコントロールされて自分で平均化してたのよね。自分の生活は自分にしかないんだもの。自分の人生も自分だけのもので、あなたが言った事今では手に取るように理解できる。それぞれの個性って本当に素敵なんだって今は本当に思うわと言った。クリスが、笑って、そんな風にきちんと定義したことないから、そうなんだと思うけれど、何だかおかしいよ。と言った。当たり前のことなのに、皆それが当たり前じゃなく毎日の生活に追われてて、ホリデーとか、そんなのも完全に平均化されて皆そうしないと罰が当たるように必死で、見てて本当におかしいなって思うんだよな~。でもそれってアメリカのような国だけじゃないんだよ。ボランティアで行く国はさらにそれが強い。皆と同じようには習慣でそれを破るとコミュニティーから背を向けられるようなこともあって、見れば見るほど人間って平均化することで、人をコントロールしようとするんだってどんな環境でも見てきて思うよ。出る釘は打たれるってことなのねとエリカが言った。クリスもそう言う事だよね。悲しいけれどと言って肩を持ち上げた。

でも自分たちだけでも、自分の気持ちに素直に生活して行きたいわねとエリカがしみじみと言った。クリスがそれが一番楽な生き方だと思うよ。ミスしてもどんな結果になっても自分自身が選んだことなんだしね。あきらめようがあるしと、さらに微笑んだ。


エリカは心の中で彼はなんて純粋な人なんだとしみじみと思った。出会えて本当に良かったと心の奥からそう思った。エリカは心で次はいつ会う事になるのかしら、自分から誘うべきなのかなと考えていたところに、クリスが明日、モロッコのスープを作る予定なんだ。食べにくる?とエリカに聞いた。本当にクリスは計画性もなく自然のままに生活してる。誘いも究極の自然体だとエリカは心で思っていた。モロッコのスープ?どんなのかしらと答えた。君は食べれられないものある?エリカは何もないわ。強いて言えばケーキは食べないように心がけてるかなと笑った。ラムだけれど本当に好きで良く作るんだ。良かったら食べにおいでよと言った。エリカが、わあ、楽しみだわと答えた。サイドディッシュ作って持っていきましょうか、と言うと、スープにあわせてサイドも作るつもりだよ。そうだなあ、赤ワインを持ってきてくれると助かるなと言った。エリカはお好みのワインある?と聞いた、ないよ、どんなワインでもアメリカ産でもイタリーでも南アフリカでもワインはワインだから拘らないよと言った。

クリスとエリカは夕食後、お互い帰路に着いた。

エリカは家に帰り、自然そのままに進展する関係が本当に嬉しかった。今までお決まりの事をして、お決まりの事がすんなりいかないと時々イライラしていた自分が一体何だったんだろうと思った。物事、物の見方考え方は、自分の心の目で見ると迷いがないと言う事がクリスと会って時を過ごす時間を重ねれば重ねるほど、真実の生き方が見えてくる気がした。大げさだが本当に彼の存在が自分が背負ってきた、肩の無駄な重荷を徐々に跡形もなく消してくれるような感じに思えた。

彼の家に行くのね。と言う事は、初めての体の触れ合いもある訳で、それは少し心がけておく必要あるわと考えていた。でも彼の事だから食事をすることが目的でその日は終わることもあり得るかなとも考えた。すべては自然の成り行きだ。それがクリスであり、エリカも自然の成り行きでその時の状態に任せれば良いのだと自分で自分に言った。

その夜、何故かうきうきして、明日の事、今日の事両方を考えて、自然と微笑む顔になった。幸せって構えずに生活してると自然にやってくるのかしらと、エリカはただまだ先は分からないけれどねと独り言を言った。


次の日、エリカはワインを吟味し、モロッコ産の赤ワインを選んだ。それと小さな花束も添えて、クリスのアパートへ到着した。クリスが、WELCOM!と思い切りの笑顔で向かい入れてくれた。なんとも言えないレストランのようなスープの香りが部屋中に漂っている。エリカがご招待有難うと言って、ワインを渡し、花は、夕食のテーブル花よと渡した。小さなカップある?生けるわと言った。クリスが何と美しい花。有難う!と言ってお礼を言った。ワインはモロッコ産なんて、選ぶの大変だったでしょう。1軒じゃ見つからなかったんじゃない?と言った。エリカはある程度調べてモロッコ産のワインを売ってるお店まで足を延ばしたのだ。

クリスがワインを早速開け、ワイングラスに注いで香りを堪能した。うーん、良い香り。こちらは君に、乾杯!二人の出会いに!とクリスが言って心から乾杯した。エリカは、二人の出会いに感謝の乾杯!と返事をして、二人でワイングラスを鳴らして乾杯した。クリスが前もって用意したチーズとクラッカーとオリーブが既にテーブルに盛られていた。クリスがどうぞ、と進めてくれた。エリカはお手伝いしますよと言ったが、クリスがノーノー君はゲストだよ。食べてリラックスするのが今日の仕事だよと言って、キッチンでクッキングを続けた。エリカは部屋をゆっくり歩いて、壁と棚に飾られた様々な写真に目をやった。素敵なお部屋ね。この写真は海外活動してた時のね。時が止まって見えるわ。と言った。クリスがそうでしょう。僕も見るとあの時のあの時間に一瞬にして戻るんだよね。写真は本当にその瞬間を写したものだから、時が止まるように感じるよね。全部かけがえなない思い出だよと言った。そうでしょうね。それぞれの背景を聴きたいわと言った。心からそう思った。説明すると一週間かかりそうだから、少しずつ話すよ。一杯話したいことがあるよ。と言った。エリカは嬉しかった。この関係が続くと言う事でクリスが時間をかけてと言ってることが。君が今見てるのは、スーダンだよ。と言った。この写真は皆笑っているけれど、それはそれはダルファーの紛争は酷かったよ。数えきれない人が亡くなったんだ。活動した中で一番危険な場所での活動の一つだったよ。と言った。そうだったの。想像ができないわ。ニュースでは見て悲惨だと分かっても、その中で活動するなんてどんなに大変か、口では表せないでしょうねと言った。確かに思い出すのもきつい位に悲惨な状態だったよ。でもその中でも良い事もあったよ。どんなに大変な状況下でも、その中で数分でも冗談を言って笑う事が人間は出来るんだよね。救いだと言える。笑いは人に希望を齎すんだってその時ほど思ったことはなかったよと言った。


クリスがまたキッチンに戻って、サラダを運んできた。さて、今度は君の番だよ。君の事を聴きたいなと言った。どこから聞いたらいいのか分からないから君から僕が知らない君の話をしてよと言った。エリカは少し詰まった。私は、あなたの比べてこれと言って冒険したような人生は歩んでこなかったから話すことはあまりないわと言った。クリスが冒険してもしなくても、君が選んできた人生がどんなだったか知りたいなと言った。エリカがその言葉でなぜか安心して、そうねえ、旅行会社で働いているのは、小さい時から絵画の中の風景に憧れたからなの。でも大人になるほど、子供の時のような夢は消えて今までは夢の仕事なんて思って働いたことなかったわ。ハイスクール辺りからどちらと言うと、現実的な皆が辿る人生を歩むことで自分が安心して生きてきたと、今つくづく気づいているの。正直あなたに出会ったたった三日だけなのに、私は今まで何で自分の道を歩んでこなかったのかって今思い始めてるの。正直言うと。あなたのように自慢できる話がないのよ。と言った。クリスが待って待って!それは良くないよ。僕と出会ったことで君が自分の人生に後悔してるような付き合いは僕は望んでいないよ。と言った。エリカが違うのよ。あなたの出会って良い方向へ私の人生が変わりつつあるって気持ちなの。と弁解した。クリスがそう言ってもらえると嬉しいけれど、僕は君が選んできた人生があったから僕は君と出会えたんだよ。もしも君が僕のような人生を選んでいたら、出会えなかったと確信できる。と言った。エリカがそうかも知れないわね。多分海外で活動してるはずだからと笑った。

僕は思うんだ。昨日までの人生は自分で選んだ人生だけれど、ある意味自分が選んだだけでなく運命がそうさせたと思わせることがたくさんあったんだ。人生、選択肢は毎日あるけれど、選ぶことは自分の選択だけでなく、自然とそちらの方向へ行くようになっていると言うか。君に話してもらうと漠然として分からないだろうから、そうだな、君に取って一番過去で大きな出来事ってある?とクリスが今度は質問した。エリカがうん、一番大きな出来事はあなたに出会えたことよととぼけた。クリスがそれはそうだろうけれど、ととぼけて、返答して、それ以外には?と笑った。父が子供のころに亡くなった事かな。私はまだ小学校に入る前だったのと言った。クリスがSo sorryと言って悲しい事思い出させちゃったね、ごめんねと言った。エリカが大丈夫よ。あまりに遠い事で悲しいとかよりも父がいない生活は当たり前のものだったからね。と言った。エリカがあなたはご家族どこに住んでるの?と聞いた。クリスが両親は離婚して、それぞれコロラドとアリゾナで暮らしているよ。何度かホリデーに誘われて1回くらい顔出したけれどそれぞれ家庭を築いてるし、僕もじっとしてないタイプだからこの数年会ってないな。でも連絡はしてるよ。親だからねと言った。クリスが君に兄弟姉妹はいるの?と聞いた。妹がいるわ。もう結婚して子供がいるのよ。姪っ子が可愛いのと笑った。クリスがそうだろうね。君はなぜ結婚しなかったの?と聞いた。3年付き合った彼がいたけれど、分かれたの。結婚すると思っていたんだけれどね、その後はなんだかんだと誰かと付き合うのを避けてきたと言うのが正直な気持ち。クリスがそうだったんだ。3年は長いねと言った。あなたは過去に誰かと付き合ってたの?と聞いた。クリスが僕にもチャンスがあったけれど、仕事柄付き合っても別れることになるので、勧めなかったのが殆どだよ。やはり遠距離は自然と消滅しやすいからね。そうだと思うわ。近くにいても上手く行かないこともあるんだもの、離れていたらなおさらよね。エリカが言った。クリスがただお互いを理解すれば遠距離でも良い関係のカップルがいるって事は、離れていても近くにいても上手く行かないって事はどこかが噛み合わないって事だろうね。と言った。エリカが大きく頷いた。


二人はワインを楽しみながら会話を止まることなく楽しんだ。エリカがそろそろ帰らないとと言った。クリスは泊っていく?と軽く聴いた。エリカはそれも良いわね。でも今日はやめておくわと言った。クリスがそうと笑って、帰りしたくするエリカに着いて玄関までいった。一緒に君の家まで送るよとクリスが言ったが、エリカが大丈夫よ。今日は用意で疲れたでしょう。この後もクリーンアップがあるし、一人で帰れるわと言った。クリスはアパートの下まで行くと言ったが、エリカは大丈夫よと止めた。別れ際に、エリカがクリスに近寄って今日は有難うとキスをした。クリスもそうしたかったが抑えていた。クリスはエリカの腰に手を廻した。君とは会うべくして会ったと言う気持ちが最初からあるんだ。本当に出会えてうれしいよと言った。クリスもエリカもお互い二人は会うべきしてあったのかなと感じていた。それぞれ違う人生を送って来たとしても、運命的に出会う人とは不思議な力で出会うようになっているとしか思えない出会いがある。人間自分を信じて生活していれば、失敗を繰り返しても、必ず運命が人生を誘導してくれると言うのは本当なのではないだろうか。

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