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Yuko hagos

小説 ''瑠璃の陶器''

Updated: Sep 30


小説  瑠璃の陶器

瑠璃の家は町全体が道路からビルディングまでさまざまな色の石で作られた海に面した町の丘にある。小さいがかわいらしい2階建ての家の一つである。玄関にはテラコッタに赤いジェラニウムが植えられ、2回の窓にもハンギングバスケットにアレンジしたフラワーが美しく飾られている。シンプルでセンスの良いアレンジメントである。瑠璃のアレンジだ。海が見渡せる窓から、シースルーのカーテンを通して入ってくる海風は心地が良い。

夫の来杏とは彼のアートエグジビションで出会った。瑠璃が良くいくフラワーショップにすぐ近くのアートギャラリーでの出会いである。彼の作品はカラフルな色を使ったモダンな風景画で人が含まれていてとても暖か味がある。瑠璃は海辺を描いた来杏の作品がとても気に入り、購入した。それが二人の出会いとなった。二人ともとても自然派志向で、贅沢は全く興味がなく、必要なものだけに囲まれて過ごす部分でとても似ている。瑠璃は雑貨ショップを経営している。自然の素材でできたものだけを売っている。忙しくないが、環境に良いものを売る仕事は、瑠璃のものへの価値観にとてもあっている。


月曜日は休みにしている。今日は月曜日、毎週開かれるフレッシュマーケットへ出かけた。リビングに飾る花と食品を買いだすつもりだ。マーケットはいつもより多少人出は少なかった。いつも行くオルガニックのベジタブルショップで材料を購入し、ほかの店を色々のぞいてみた。手作りの石鹸や、ソースや、パンなど、興味をそそるものばかりが並んでいる。ソープは瑠璃が自分で作るし、パンも焼く、ソースは来杏のお得意である。マーケットへ行くといつも新鮮な気持ちで帰ってくる。色々な手作りのものを売って生計を立てている人々と接触するのは、何か人生触発されるものがある。瑠璃と来杏はほとんど自分で作るが、毎回何かを買って、マーケットに出店してる人たちを援助するのも重要だと瑠璃は思っている。

買いものを済ませ、帰路へとついた。海沿いから少し中に入った路地に入り、丁度ミートマーケットやリッカーストアーが並ぶメインの通りを過ぎて曲がったことがない路地を覘いてみようと右に曲がった。さまざまなショップが並ぶ中に気になるお店が目についた。セカンドハンドショップだった。買ったものを店の中に置かせてもらい、店内を検索した。中には価値のありそうな、古い食器や珍しいシルバーのティーポットなど、リネン、さまざまなものが所狭しと置かれていた。重ねられたリネンの後ろに小さな陶器のオリーブ入れのような受け皿が見えた。花柄のポーセリンで高そうに見えないが独特なかわいさがあった。たった一つだけ置いてあった。瑠璃をそれを手に取った。その瞬間になんとも言えないしっくりと手に落ち着く不思議な感じが沸き上がってきた。または、これまで一生出会うべきものと出会ったような、そんな感じなのかもしれない。瑠璃はその時はそこまでは考えていなかった。ただ数ある店内の品物の中で一際瑠璃の関心を惹いた。


瑠璃はとてもセンスの良い女性店員に、その陶器の由来を聞いたが、彼女はどこから来たのか知らないと答え、ただこの店の前に別の場所で中古ショップをしていたが、一番最初からあったと言った。値段は3ドルもしなかったが、瑠璃にとってはお金で買えないものを手に入れたような大変な満足感があった。

陶器を大切に持って帰り、ピアノの上に置いた。そこが新しくやってきたお気に入りの陶器の居場所だと瑠璃は思ったのだ。陶器の底には日本製と英語で書かれていた。どこの会社の作品かは、印刷が薄れわからなかったが、瑠璃は日本から来たこともどこのメーカーかも、全く気にかけなかった。小さなお気に入りの陶器を持って帰ったことがうれしかった。

瑠璃の今までの人生は、可もなく不可もなく、派手ではないし、地味でもない、でもどちらかというと質素な生活だ。瑠璃はそれがうれしかった。多くを望まず、毎日質素でも当たり前の日常の事が幸せな気持ちでできれば、瑠璃はそれで良かった。



来杏が帰宅し、陶器に気付いて、あ、新しいお皿だね。と瑠璃に言い、置く場所もまるで前からあったかのように、馴染んで見えると言った。瑠璃もそう思った。

雑貨店は11時に開店する。瑠璃は一つずつ気に入ったものだけを仕入れしている。店内は瑠璃のお気に入りのもので溢れた部屋のようで心地よい。木製の像、ケニアのこちらも木造のエスニック民族のボディーの彫り物、木製のゲーム、長方形の手作りガラスの花瓶、ベトナム製の床置きランプ、日本製の陶器、エチオピア製フルーツバスケット、アジア製の布、アフリカ製ブランケットなどエスニックな品物が並んでいる。すべて自然素材のもので統一されている。買いにくるお客さんが気に入ったものを買うとき、迷わずにそれだけ選ぶのを良く見るのだが、それもものと人間との結びつきだといつも思う。その日は、朝雨が降った。お昼に近い今の時間はもう晴れ間が出ているが、朝の雨のおかげで町がきれいに掃除されたように気持ちが良く思えた。


女性の客が’’ハーイ‘’と入って来た。愛想がすごく良いわけではないが、見るからにやんわりとした感じ良い女性だった。コットンでできた涼しそうなプルオーバーを着て、ルーズなコットンでできたパンツを履いている。エスニックな装いだ。瑠璃もハローと声をかけ笑顔で迎えた。どうぞご自由にご覧下さいと言って、歓迎した。女性が、ダイニングルームに置くフルーツバスケットを探してるんです。と言った。瑠璃はエチオピアとケニアのバスケットがあると女性に言って、品物を手に取って説明した。ベトナム製はないかと女性が聞いた。彼女は昔ベトナムに住んでいたことがあり、家も東南アジアのもので揃えてるので、できれば東南アジア産のものが欲しいのだがと言った。バスケットはないが、ベトナム産のランプがあると瑠璃が言うと、女性が目を煌めかせて、ランプも実は探していたと言う。見て大変気に入ったようで、購入した。その女性がアジアに滞在していた時のことを少し話だし、タイには良くいったが、津波の後のダメージで、その後国の混乱で今は、前のような平和な部分がかなり衰退し、観光客も減って、とても悲しいと話した。瑠璃も世界状況には詳しいので、本当にその通りですよねと、女性と少し会話をした。女性がまた来ますと明るく帰っていった。その日は数人お客は来たが、売り上げはなかった。瑠璃は時々、なぜほとんど収入がないこのお店をやっているのだろうと、自分に問うことがあった。レントがすごく安く、大家さんがレントはいらないとただ素敵なお店があると良いからと言って、ただのようなレントで貸してくれているので、やっていけるが、瑠璃は自分にこれで良いのかと問いかけている。平凡すぎて、質素すぎて、おしゃれな街にある雑貨やだが、あまりそうは考えないようにしてるが、つまらないと心の奥底では思っている。かと言って、今の生活を変える勇気もない。


仕事を終え、帰路についた。スーパーで夕食の材料を手に入れた。今夜は地中海料理と野菜フルーツサラダを作るつもりだ。瑠璃は95%ベジタリアンである。来杏も瑠璃のダイエットが好きで、お互いあまり肉を食べないようにしてる。肉を食べないと、もっと体力が出るように感じる。疲れない。それに胸やけなどもないし、さらに体のシルエットを保てるからだ。ワインは來杏がいつも選ぶ。彼はいつも変わったワインを選んできて、瑠璃はそれぞれ違う味を味わるのが楽しみだ。二人は料理が大変好きである。毎日レストランで出るような料理を作り、ワインを飲みながら、一日の終わりの楽しみを欠かさない。外に出るよりも家でゆったりとした時間を二人で過ごすことが二人の醍醐味なのである。

買った素材を白いコットンのショッピングバッグに入れ、瑠璃は帰路についた。帰る途中、通り過ぎる人の中で、ある女性とすれ違った。その女性は美しい長い黒髪の同じ年位の女性で、清潔な感じだった。どこにでも見かける女性だったが、何故か瑠璃の意識が彼女に行った。

夕食はいつものように美味しく、ワインと一緒に心から堪能した。瑠璃にとって一番の楽しみは、毎晩、違うレストランのように家にあるもので簡単にデコレーションして、その夜特有のディナーのテーブルを用意することなのだ。今回の夕食はシリア料理だ。豆料理のフルとメディトラニアンサラダにオレンジを入れた。ディジョンを入れたレモンとミント、イタリアンパセリのドレッシングが絶妙なコンビネーションとなった。ワインはポルトガルのワインでアカンパニーした


翌日は、曇り空だった。雨が降るかもと天気予報で予測していた。雑貨店には新しい商品が幾つか届く予定で、少し早めに店に入った。開店時間の前に商品が配達され、商品チェックと店内のディスプレーに忙しかった。今回も数は少ないが、新しい顔の魅力的な自然に溢れた商品が店内に並んだ。午後、若い女性二人が店に来て、新しく店に来た、メキシコ産のカラフルな皿のセットと木製のサラダスプーンとフォークを購入した。スペイン産の皿もメキシコ産に似てるものがあるが、メキシコ産の明るい色を女性は選んだ。彼女の明るい向日葵のような性格にあってると、瑠璃は心で思った。その後も、数人のお客があり、今日は何故かいつもよりも店を訪れる客が多く、新しい商品がやって来たのと同時に、それをまるで分っていたように買いに来た客がいたのには、瑠璃は、この商品たちは来るべきしてここにこの日に来たのかなと思わずにはいられなかった。今日の売り上げはいつもより、良かった。新しい商品が新しい持ち主を店に連れてきたかのように、筋書き通りに来てすぐに、商品は行くべきところへ旅立っていったと、瑠璃は勝手に思っていた。その日店を閉め、帰路に着いた。ディスプレーのためのタグを買う必要があり、ステーショナリーショップへ行く必要があり、自分がいつも行く場所から離れた、あまり行くことが少ない地区へと足を延ばした。ステーショナリーでショッピングを済ませた後、すぐ近くの自然食品のお店を見つけた。瑠璃はいつも自然食のお店があれば良いのにと思っていたので、思わぬところで見つけて、宝物を発見したかのようにうきうきした。早速中へ入った。


道ですれ違ったあの黒髪の女性が迎えてくれた。女性が、‘ハーイ、いらっしゃいませ。どこかで会ったことありますか?’と瑠璃に聞いた。瑠璃は、昨日すれ違ったことを言った。あなたの美しい黒髪が印象的わだったと言った。女性は、スカートを翻して、プリンセスのように膝を曲げて挨拶をして、有難うと言った。思わず二人で声をあげて笑った。店内には、それは体に良さそうな、さまざまなオルガニックの野菜と、粉や米、自然からできたホームグッズが整頓されて、並んでいる。あらゆるコーナーから女性のきちんとした、それでいて、自然な性格が見て取れる。女性は自分を、羅美だと紹介した。その女性は半島の反対側のコーストの町から引っ越してきて、この店をオープンしたと自己紹介した。瑠璃はその日は、夕食の材料を購入して帰宅した。瑠璃は、来杏にその日、夕食後、ワインを飲みながら、女性とすれ違ったことから、今日の店の事まで早口に話した。来杏が、陶器との出会いのように、その黒髪の女性との出会いも、何かの縁なのかもしれないと言った。


その後も、瑠璃は毎日のように、自然派であるから必要なものは羅美の店で手に入れるようになり、羅美も何度も瑠璃の店を訪れた。安心して口に入れられる素材は、さらに食事の味を格別にしてくれると思っている。二人は、ビジネスの話や、その他いろいろな会話をするようになり、自然な友人関係が始まった。


9月も終わるころになり、地中海の温暖な気候でも、暑さが緩和させる時期になった。瑠璃はあのアンティークショップにまた行きたい気持ちになり、足を運んだ。また感じのよい女性が迎えてくれた。瑠璃は女性に、前に違う場所で店をやっていたと言っていたがどこでやっていたのか聞いた。反対側のコーストだと言った。店を始める前、その前にアンティークショップをやっていて、閉めることにした人から商品を受け継いだと言った。その時からあの陶器があったと。その店は、羅美が来たコーストと同じ場所であることも分かった。心で偶然だわと思った。店では、スペイン製のコーヒーカップを手に入れて、帰って来た。


次の日、また羅美の店へ行き、野菜とフルーツを買った。その時、羅美にアンティークショップで気に入った陶器を購入したが羅美が住んでいたコーストのアンティークショップから来たことを言った。羅美は、その陶器はどの位の大きさと聞いた。片手のひらを開けて、このくらい?と聞いた。瑠璃は、そうよ。と答えると、花模様のと細かく瑠璃が手に入れた陶器の模様を言い始めた。瑠璃は、驚いて、その陶器を知ってるの?と聞くと、実は、羅美の母がアンティークショップをやっていた、母が心から気に入っていたもので、母が運命的出会いに思い手に入れたと言った。何と言う偶然なのか!瑠璃は、そんな大切なあなたの家族のものなら、持ってくるわ!と羅美に言うと、羅美は首を振って、母に一番お気に入りの陶器は残すべきだと言うと、母は、アンティークショップをやめるときに、アンティークショップを始めたのも自然の流れ、アンティークショップにやって来たものたちも、来るべきしてきた訳で、その店を閉めることを決めた時点で、あの陶器は誰かいつか必要な人が出てきたときに、その人の元へと行くべきだと羅美に言ったらしい。羅美は瑠璃にあの陶器はあなたが出会うことになっていたのよと言った。瑠璃も心からそうだと思った。物との縁、人との縁は、本当に存在するのだと瑠璃は改めて思った。だからこそ、自分と出会うべきしてあった人や物たちを心から大切にしないと自分に言い聞かせた。羅美の店で、野菜を買うとき、大切な来杏が食べてることを考えながら、美味しそうな野菜を選んでいる自分に気が付いた。帰り際に、羅美に心から有難うと言って、店を出た。

この町で、可もなく不可もない、店をして前に心の奥底でつまらないと思っていた自分が、今は心から平凡な可もなく不可もない生活ができることは、実はつまらないことのようで、自分が選んできた人生のとても貴重なことなのだと考えるようになった。家に帰る途中の石畳の丘を歩き、毎日の生活をしている町の人たちの会話の声や、様子を見ながら心から親近感が湧いた。夕日が自分の町と海を照らすポストカードのような光景が今まで以上に美しく見えた。





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