莉羅の住む町は地中海気候の古い海沿いの町である。ライムストーンで作られた街路、ビルディングがなんとも言えない美しい雰囲気を出している。莉羅の家はメイン通りから10分ほどの海に面した高台のコンドミニアムの2階である。入り口にはブーゲンビリアの花が鉢から健康に育ち外壁を上に向かって伸びている。2階の窓からは海が何も遮るものなく見える。夏にはたくさんの観光客が心を癒しにこの町を訪れる。皆リラックスして、滞在の時間を満喫している。莉羅はこの町の住人だが、毎日ヴァケーションを楽しんでいるかのような気分で、暮らしていると自分で思っている。働く必要はあっても、リラックスしてヴァケーションをしてるような気持ちは常に忘れない。

家も仕事場も、往復する道もすべて映画のような美しい街だからだ。窓から見える景色を、海の匂いを、毎日何度も経験しても感動する。莉羅は、皆が休暇に行くのよと嬉しそうに言うとき、なぜ別の場所にわざわざ休暇に訪れるのか、不思議でならない。この町より素晴らしいところがあるのだろうかといつも思っている。そんな美しい街に住めること、なんてラッキーなのだろうと心から思う。海からくる風は、疲れが出る時でもその疲れた心を一掃してくれる。波の音もそうだ。美しい日の出と日の入りの光景も。一日が始まり、一日が終わると言う当たり前の日常が、自分の町では、まるで癒しのビデオを見てるかのように毎日繰り返される。日の出で始まり、美しい夕日で終わる毎日。雨が降ったとしても、水面を弾く雨の美しさ、きらきら光る雨のしずく、町の汚れを洗い流してくれる雨水。そんな当たり前の日常を莉羅は特別な事として常に有難く思っている。

海に面した小高い丘に作られた歴史的なこの街の、海から丘へと登っていく道は狭く、車がやっと通れるほどで、その両側にライムストーンやレンガで作られた白や、黄色や、オレンジの色とりどりな家が並んでいる。ほとんどの家がそれぞれ花で飾られ、その中にレストラン、ギフトショップ、ケーキショップなどが配置されている。所によっては、道路の両側にレストランのメインショップと、海に面した側に客用のテーブルと椅子が置かれ、狭いながらロマンチックでお洒落な雰囲気を醸し出している。食事をする客が、地元の人間か、観光客のどちらかは大体見て検討が付くが、ローカルの人間でも温暖な気候で、まるで観光客のような装いをしているので、時々どちらかなと思う時もある。誰もが食事時のくつろいだ時間を満喫している。各家の玄関先、窓、鉢から健康に育った赤、ピンクのジェラニウムやペチュニア、ブーゲンビリアが咲き乱れそれは美しい事。アーティスティックでシンプルな外見の家がその美しさを浮き出させている。ぬりかべ、石壁、白や黒のメタルのバルコニー、花と調和がどこにもない独特な美しさを醸し出している。莉羅が住む家もその丘の途中にあり、莉羅の家のバルコニーからは反対側の丘に並ぶ街の家並みと山の頂上が見え、その向こうにはコバルトブルーの海が広がっている。
ここに住む人々も、年齢かかわらず、皆が毎日人生を楽しんでるように見える。仕事もそのうち。働いて、良く食べて飲んで、会話に弾んで、思い切りその日を充実させることだけを皆楽しんでいる。その日が何となく終わってしまったなんて人がここにはいるのだろうか?そんな風に考えるほど皆が、生き生きと生きてるように見える。彼女の家のそばのリストランテのオーナーは70近い恰幅の良い男性だが、毎日楽しそうに歌を歌いながら仕事している。莉羅を見かけると、チャオと元気にいう。莉羅はソーセージベジピザを好んで良く食べる。以外に軽くお腹にたまらないからだ。オーナーのすべて手作りで、ピザドウの香ばしさは別格だ。ソーセージも地元の手作りなのだ。サラダも特に好きで、ランチにグリルチキンやサラミを添えて食べることが多い。夜はその店に行くこともたまにあるが、海沿いのメイン通りのお気に入りのレストランテで友達とワインを飲みながらの食事が一番好きだ。お店のテラスがそれは素敵で、ロマンチックでもある。夕食を終え、レストランの前は海岸沿いの道で、夜の灯りが暗い海の波に反射し、気持ちの良い海からの風と、波の音が、一日の疲れを拭い去ってくれるといつも感じる。友達と話していても、その場所では、二人ともフェンスに体を休めて、夜の海の光景を、じっとして会話も中断ししばらく見るのが、食後のルーティーンだ。潮の香りを感じながら、揺れる夜の波を見てぼうっとして時間を過ごすのが友達と会う時の最後のお決まりなのだ。今回も食事を済ませ、友人と海岸沿いに出向いた。いつも行くフェンスに寄りかかって潮の香りと波の音を楽しんだ。二人は他愛ない会話をしていつものように時を過ごした。会話が途切れると二人して、ぼうっと海を見つめる。海の光景が一日の疲れを取り除いてくれる。
隣で男性が一人で、海を見ていた。カールした黒髪が顔に少し垂れて、顔は良く見えないが、じっと海を見つめている。莉羅はちらっとみて、何か考えることがあるのかなとふと思った。でもすぐに人は人。人の事をあれこれ検索する必要ないと思い、また友人との会話に戻った。なんでもない会話なので、続かず、またぼうっと海を見つめだした。莉羅はまた男性をチラッと見た。彼も莉羅を見た。友人が、そろそろ帰らない?と莉羅に示唆した。莉羅もそうね、と言った。莉羅は男性の事がほんの少し気になったが、誰かもわからないし、話をするきっかけもない。莉羅と友人はその場を去って、帰路に着いた。莉羅は家に帰って、あの男性何を考えてたのかなと少し考えた。見知らぬ男性だから今こうやって考えるのも馬鹿みたいと、独り言を言って、就寝の準備にかかって、ベッドに入った。何故かあの男性が気になった。彼の姿が自分の頭の中に焼き付いている。彼の何だか寂しそうな感じが、莉羅に伝わってきたように思えた。でもなんでもなかったのかもしれないと、自分に言って、眠りについた。
それから数日が過ぎた。金曜日、働いているファニチャーショップでの仕事を終え、帰路に着いた。今夜は軽くサンドイッチでも食べるかなと、考えて、デイリーでフレッシュなハムを買うことにした。デイリーでハムを購入し、その後サンドイッチ用のパンをパン屋で仕入れ、家へ向かった。海風が気持ち良い。この町は丘が多く、階段もたくさんあるので車や自転車での移動は不便だ。歩く必要が毎日あるので、改めで運動をしないとと考える必要はないような生活だ。海沿いの丘の道を歩いていると、レストランで食事を楽しんでいる人や、散歩を楽しんでいる観光客にたくさん会う。皆ワインを美味しそうに飲みながら、料理を楽しみ、会話を楽しんでいる。レストランのメインの店から狭い海岸の通りを隔てて、海側にそのレストランの客用のテーブルと椅子が設置されていて、客は店内よりも海に面した席で食事を楽しみたいのか、席は一杯の客で満たされている。ウェイターやウェイトレスが、右左に注意しながら、店から海岸沿いの席へと料理や飲み物を運ぶ姿が常に見られる。客は、年老いた夫婦や、若いカップル。ティーンエージャーのいる家族、女性のグループなどさまざまな客が夕食を満喫している。
その混みあったレストランを過ぎて、少し歩いた比較的に空いてるレストランの海沿いの席に、先日気になった男性が一人で座っていた。莉羅ははっと思い、かと言って、声をかけるのはどうかと、その場をゆっくり過ぎようとした。ワインを飲んでいた男性が、莉羅を見て、ハロー、先日海沿いにいませんでした?と聞いた。莉羅は、え?と知らないかのような振りをして、あ、あなた、海岸沿いで会いましたよねと答えた。男性は、もしも良かったら、ここへ座りません?予定がないならだけれど。と言った。莉羅は、ハイと言って座るのは軽いかなと考えて、うーん、ちょっと予定あるけれど、少しならと言った。男性が、ああ、それならいいですよ。僕のために予定を変更するのは悪いからと言った。莉羅は、別に大した用事じゃないんだけれど、と言ったが、男性は、首を振って、大丈夫。もしもと思っただけだから、と言って、手を振って、良い夜をと言って、下を向いた。莉羅は、がっかりした。何でハイと座らなかったのかと。その場を去って、とても後悔した。もうこんな機会はないかもしれないのに!と自分に憤慨した。
莉羅は、後悔が止まらず、数分歩いた後で、彼のいるレストランへまた戻った。丁度彼は席を立とうとしたところだった。あの、実は予定なんてないです。何の予定もないの。ただあなたに言われて、ハイと座っては、軽く見られるかなとか考えて、予定があるって言ってしまったのと言った。男性は思い切り笑い顔になって、じゃあ、座ってと莉羅を向かい入れて、また座りなおした。店員に指で合図をして、何を飲みますか?食事もまだでしょう?と言った。ええ、お腹空いてますと、莉羅は素直に答えた。遠慮もせずに。でもそれが莉羅の性格、軽いワインと、サンドイッチを頼んだ。男性はもう夕食を済ませたらしく、またワインを頼んだ。二人は自己紹介し、彼はタイラーで、ツアーガイドをしてると言った。個人でのツアーガイドだと。莉羅は、はっきりな性格で、先日会った時に、何か深く考えてるように見えたわと言った。タイラーが、そう見えた?実は、、、海に飛び込もうと考えていたんだよと暗い顔で答えた。莉羅は、え!!何で!と少し大声を出した。タイラーは、冗談冗談。あんな所から飛び降りても、気持ちよく泳いで終わっちゃうよと言った。莉羅は、驚かさないでよと言ったが、すぐそうよね、飛び込みに点もつけられないくらいの低いジャンプになるものね。と言って笑った。
この会話がきっかけで二人はすぐにまるで昔からの同級生のように、話を始めた。タイラーは何を悩んでいたかは言わなかったが、莉羅も、タイラーが話したくないのなら、それは別にそれでいいと思い、二人はお互い好きな映画、趣味、など音楽など尽きなく話した。10時近くになった。莉羅は、もう10時なの。なんだか初対面なのに、すごく話過ぎちゃったわ。明日また、仕事なので、今夜はこの辺で。とタイラーに言った。タイラーも同感して、莉羅が出そうとする夕食代を認めず、二人は店を出た。二人は海沿いの道を二人で歩きだした。二人は家がある方向が同じなので、途中まで話をしながら歩き、帰り際にタイラーがまた会えるかな?と莉羅に言った。莉羅は、そうね、また会いましょうね。今日はとても楽しかったわと言った。タイラーが莉羅に電話番号を教え、莉羅は携帯に登録し、莉羅も彼の電話にすぐ電話をし、これが私の携帯よとお互い電話番号を交換した。タイラーは月レンタルのコンドを借りている。ガイドの仕事は場所を変えられるので、町に移住することは少ない。この町へも数か月のつもりでやって来た。莉羅は幸せな気持ちで帰宅した。タイラーとすぐ打ち解けて、遠慮なく話せたことで、好感が持てると思った。ただタイラーの事はまだ全く知らない。どんな人間かも、過去になにがあったかも。それにタイラーにとっての莉羅も同じだ。たった1回会って話しただけの間柄。お互いまだ手探りだ。だから恋愛は面白い。
次の日にはタイラーから電話はなかった。その次の日にもなかった。3日が過ぎた。莉羅はタイラーが電話をかけてくるかと待っている自分に少し苛立った。好きなら次の日にかけてくるはずと考えたり、次の日だと軽くと思われるから、2,3日経ってかけるべきだとタイラーは考えいるのではと考えたり、莉羅の頭はタイラーでいっぱいになっていた。莉羅は、ダメダメ、自然の流れ自然の流れと、自分に言い聞かせて、日常の事に集中するように努めようとした。次の日も電話はなかった。1週間が妥当なのかな?とか色々考えた。タイラーは1週間を見て、電話をかけてくる気なのか。それとも、あれでもう終わったのかなど、さまざまな考えが頭をよぎった。仕事も手につかなかった。正常心を取り戻そうとしても、頭でタイラーの事ばかり考えている。かと言って、大好きで大好きでたまらないと言うわけではまだないのに、何でこんなにそればかり考えているのと自分に言い聞かせた。莉羅は、開き直って、一体私はこの1週間何をやってるの!たった1回たまたま会った男性をまだ恋人でもなんでもないのに、あれこれ1日中考えてと、気持ちを日常にまた戻すように心がけた。 翌日は、今までと違い、前のような気持ちで朝が始まった。タイラータイラーと考えてる自分が吹っ切れた感じた。仕事へ行き、いつものように仕事をした。仕事を終え、今日は何を食べようかな?アジアンヌードルでも作るかと思い、買い物へ向かった。スーパーへ入ってすぐにタイラーから電話が来た。やっと!と莉羅は思い、すぐ返事した。ハイ、莉羅。元気?莉羅も元気よ。その後どうしてる?と聞いた、ガイドの仕事で1週間クライアントのお供をしてたんだと言った。だから連絡がなかったのか。と莉羅はうなづいた。違うお店であう?それとも同じ?と話、同じ店に行こうと言うことになった。 莉羅はタイラーと会った時に、やっと会えたと心から思った。恋しいと言うよりも、心を休めてくれる人に会えると言う感じが強い。店で会って、何故か二人は自然とハーイとハグした。本当に自然にお互いハグしたかった感じた。タイラーはクライアントの話を途切れることなく莉羅に話した。ガイドは朝食から夕食まですべてお任せのプログラムで、正直生き抜く暇がなかったと莉羅に言った。クライアント二人の性格の表現がまた豊かで、知らない人たちなのに、今はまるで会ったことあるかのように思える。莉羅もインテリアショップをするきっかけとなった、インテリアデザインスクールでの話。インテリアデザイナーになることは選ばずにインテリアショップを選んだのは、気楽でいられるからとケロッとタイラーに白状した。タイラーがデザイナーだったら収入は大きかったのじゃない?と言ったが、莉羅はお金使うことそんなにないからと答えて、莉羅らしかった。タイラーがそう言う考えっていいね。今は皆お金お金、もっともっとと強欲になってるのに、莉羅のように多くを望まず生きられるのはある意味ラッキーだよねと言った。
タイラーはガイドを選んだのは、旅行が好きで、歴史も好きだからだと言った。プライベートガイドはかなり良いお金になるが、コンスタントではないから、社員と比べると安定はしていないけれど、自由があるからとガイドを選んだと言った。ただ時々、浮浪者のようで足が地についてないような不安定感を感じるのは否めないと言った。場所を移動するのでいつも一人だし、特にガイドは競争が激しいから友人となるのはとても難しいと言った。莉羅はだからあの時彼は何か考えた風に見えたのかなと思った。そう、ここには定住していないんでしょう?他にいつ行く予定なの?と聞いた。タイラーはまだ未定だよ。と言った。莉羅は、ふーん。そんな生き方もなるのね。うらやましいとタイラーに言った。心でこうやって楽しい時間を過ごしていても、さっと、どこかへ行ってしまう可能性もある訳よねと聞こえない声で言った。そう考えると、こうやって時間を作って、関係を深めていくのはどんなものかとふと頭を過った。でも、そうではない。この関係がどう進展するかはわからない。今から先の事を考えて、まだ起こってない未来のために今、どうするか決める必要はない。 そう考えたら気楽にタイラーと付き合う方が良いのだと思い、今を楽しもうと言う気持ちが大きく生まれた。莉羅は会話に戻り、うん、確かにここで暮らしていても、時々ふとこれでいいのかなって考える時もあるから、場所を移動しての仕事はもっとでしょうね。とタイラーに言った。それにここに住んでることはいつも観光してるようなもので、あまり他に行こうとは思わなくなるのよねと言った。タイラーは、そうなの?他の場所を見てみたいとは思わない?と聞いた。その気持ちあるけれど、ヴァケーションと言うことを優先して考えると、仕事しながら美しい海を毎日楽しめるし、たくさんの環境客を毎日のように見てるから、そうは思わないのかもしれないわと、莉羅は言った。タイラーは確かにここは本当に美しい街だよね。ため息が出るくらいにと言った。莉羅は何故かすごくうれしかった。自分を褒めてくれているかのように。ここに住んじゃえば?と莉羅はケロッとタイラーに言った。タイラーもそれも良いねと答えた。本音はわからない。
次のクライアントの予定は?と莉羅が聴いた。今週は予定は入っていないんだ。もしかしたら突然のオーダーが来るかもしれないけれど、今のところはないんだと言った。莉羅は自分の働いてる店へ来てと彼には言わなかった。来ても意味ないし、彼はここに移住していないから、家具を買う予定もないし。莉羅が、仕事はいつも7時までなんだけれど、月曜日は休みなの。もしも予定なかったら、私をガイドしてくれる?とタイラーに聞いた。もちろん、ガイド料払うわよ~と声を低く他人のような声でふざけて言った。それは、いいね。月曜日は今のところ何もないってないから、知ってるようで意外と知らない街観光しようか。と計画した。
月曜日はあいにく午前中、天気が悪かった。小雨が降っている。降っても一日中降ることは少ないので、続くことはないだろうが、観光開始としては、ちょっとがっかりするような天気だ。タイラーはそんな事全く気にしてない様子で、大きな傘を持ってきて、ここに入ってと莉羅を傘に招いて、肩をそっと抱き寄せた。莉羅はドキッとした。当たり前のことなのだけれど、何故かドキドキした。それを見せずに、OKとさらにタイラーに近寄った。待ち合わせの、ピアッザドゥオーモ(教会スクエアー)タイラーが説明し始めた。13世紀に建てられた教会の前のスクエアーの作られた噴水で、中央には馬と人間が一体化した像、この町のシンボルが飾られている。4方向の噴水と呼ばれるのは4方にそれぞれ小さな噴水があるからで、周りにはいくつも教会がある。神聖なところであるのだが、人々は気軽に観光を楽しんで、アイスクリームを食べて教会を覘いたりと、神聖と言うよりも明るい観光スポットになっている。莉羅は毎日通り過ぎながら、そこまで歴史を探ることはなかったので、最初の場所の説明だけで、タイラーをすごく尊敬の目で見た。タイラーは莉羅の目を見て、それを感じ、見直した?と言った。莉羅は肩をあげて、かもね。と軽くあしらったが、嘘は隠せなかった。
ピアッザを過ぎ、白とオレンジの塗壁でできた見慣れた可愛らしい街を歩いた。その頃もう雨は上がっていた。通りにはたくさんの階段で丘の上にあがる横道がある。幾つかの横道に絵画を売る人たちが自分の作品を売ろうとカラフルな絵を幾つも飾りだす光景が見られる。まだ地面には雨が残っているので、持ってきた敷物を敷いて絵を保護してる姿が見られた。海沿いに出た。タイラーが16世紀にできた別の教会を説明した。また教会の説明だけれどと言った。柵に寄りかかって、海の匂いを少し堪能した。毎日見ても海はいいねとお互い同意した。海を見てると何も考えなくなると二人とも話した。何でだろう。世の中には色々な事が次々に起こっているが、海を見ていると、ただ広がる水と波だけ。遮るものがない。だからだとお互い話した。
その後もさまざまなところを歩き、タイラーがそれぞれその場所の由来を莉羅に説明した。ランチの時間になり、莉羅がいつも行くリストランテを示唆した。タイラーも行ったことがないので是非行ってみたいと言うことで、ランチはいつものリストランテに行くことになった。オーナーが思い切りの笑顔でシニョーラ、シニョーレと迎えてくれた。莉羅の事は良く知っているが、彼氏?などと聞かない所がプロらしいと莉羅は思った。莉羅はいつものピザをオーダーした。タイラーはトリプルミートのピザをオーダーした。それと食前酒に小さなワインも味わった。タイラーは凄く美味しいと何度も繰り返して言った。オーナーがとても嬉しそうに笑って、食後のジェラートを二人で召し上がれとサービスしてくれた。莉羅は二人で食べるジェラートとに子供のようにうきうきした。タイラーも同じように感じた。午後も町を歩き、ガイドを少し続けたが最終的にはデートとなった。タイラーが莉羅の腰に手を廻して歩き始めた。自然の成り行きだ。少し人が少ない路地を通った時、タイラーが莉羅の方を向いてキスをした。莉羅も驚きもせず自然の成り行きでそうなった。
二人はその後関係を深め、タイラーも他の市に移る事は全く考えず、この町に住むことを決めた。
二人は新しいアパートに二人で住みだした。お互い仕事は同じ仕事を続けている。意外だったのだが、タイラーはシェフほどの腕前の料理上手だった。莉羅も料理は大好きだが簡単なものをさっと作ったり、レシピを真似して料理を作る感じだ。タイラーは料理学校で働けるほどの腕前だ。莉羅はタイラーに料理を生かしての仕事も良いのではないかと言った。タイラーも考えていたことで、ただ料理スクールは気が進まないらしく、雇われシェフを始めることを決めた。雇われシェフはクリスマスやアニバーサリーなど特別な機会に前もってかなり前から予約するので、ガイドの仕事もできる。両方とも好きなことを並行して続けられるので一石二鳥だ。莉羅は同じインテリアショップで働いているが、やはりタイラーのアドバイスでインテリアアドバイスをするようになり、それが切っ掛けでインテリアデザインも手掛けるようになった。
二人のキャリアはそれぞれ違いがあり、一緒に住んでいる中で、生活でのすれ違いが多くなった。3年一緒に住んだが、相手のペースを乱さないように、また別々に暮らしだした。でも二人の関係は変わらずに、続いている。関係を続ける中で、お互いを尊重しながら、それぞれのしたい事は思ったように続けられる。考えると理想の形なのかもしれない。
今夜はタイラーの家で夕食をする予定となっている。タイラーは腕を振るってフルコースディナーを作るのに忙しい。心からそれを楽しんでいる。莉羅が特別のワインと美しい花束を持って、タイラーの家のブザーを鳴らした。タイラーが思い切りの笑顔で扉を開けた。すっきりしたモダンなインテリアの中に、カラフルな可愛らしい花がタイラーの家に鮮やかさを齎した。莉羅の訪問がいつも同じようにタイラーの家に鮮やかさを齎す。反対に、莉羅の家にタイラーが来るときも、莉羅の自然に溢れたインテリアに洗練されたモダンな色が加わるかのように、タイラーが味を足す。 二人はワインでいつものように音を立ててグラスを鳴らし、サルート!私たちの人生に!
といつものように乾杯し、ディナーと尽きない会話を心から堪能した。この先人生のどんな転機が来るかは二人にはわからないが、今の二人は幸せだ。食後はバルコニーに出て、ワインを味わいながら、海の音と海から来る風を感じて過ごすのが何よりの楽しみだ。今夜も気持ちよい夜の海風と波の音と月の光が二人の夜を祝福している。
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